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『コロンブスの電磁気学』の概略へ
『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の概略へ

『コロンブスの電磁気学』増補改訂版(A4判 831頁 価格:6000円)
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敬愛するマイケル・ファラデー(4) ファラデーの無念が今まで晴らせなかった理由

2010年1月11日

宇佐美 保

 

 

 先の拙文≪敬愛するマイケル・ファラデー(3 ファラデーの無念を現在の測定器で晴らす≫に続きまして、本文では“ファラデーの無念が今まで晴らせなかった理由”を考察します。

 

先ずは、≪『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の概略≫の「1 (シングルエンド的な流れではなく、伝送路的な流れ」を此処に(一部変更しながらも)再掲いたします。

 

「写真:1」の銅平板を2枚(長さ:200mm、幅:12mm、厚さ:2mm、間隔:約2mm)よりなる伝送路にクロック信号(2V/0V 100MHz1MHz)を流し、伝送路表面(「信号線(注)」と「グランド線(注)」)での電圧変化を、電界強度変化を(一旦、光の強度変化に変換することで)測定することの出来る測定機であるEOプローブ(横川電気製:リアルタイムEOプローブAQ7710:詳細は≪『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の概略≫に記述しました)を用いて観測しました。

 

この結果を見ますと、信号線のみならず、明らかにグランド面にも電界(信号線とは正負逆符号)が同時に発生していることがわかります。

 

(注)

「伝送路」は一般的には、「伝送線路」(transmission line)と表示されていますが、本著では、「伝送路」と略記させて頂きます

 「伝送路」は一般的に2本の平行な導体で形成されます。

しかし多くの電気機器、測定器は片方の導体をアース(最終的に地球)に導いていますので、その導体(後に、その導体に接続される導体)をグランド線と呼称しています。

(場合によっては、このグランド線は、昔、ラジオ等を組み立てた際のアルミ製のシャーシのような共通の金属面が担う事もあります)

 

 そして、このアースに落ちているグランド線では今回の測定では色々な不都合を招きます。

例えば、この結果の内、100MHzの測定結果は、信号線/グランド線での波形は、プラス/マイナスと対称的ですが、1MHzの場合は、その対称性が崩れ、グランド線側の波形が低くなっています。

この原因は、より周波数が低い周波数の電気信号(今回では1MHz)は、グランド線がアースに落ちている事に起因します。

(この件は是非、『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の本文にてご確認ください)

 

 更に「伝送路」で注意しなくてはいけないのは、導体の間隔などが変化しますと、その伝送路の特性インピーダンス(Z)がその箇所で変化してしまいます。

伝送路の特性インピーダンスに関しては、そこを流れる電気信号の電圧(V)と電流値(I)に対して、電気抵抗(RV/I)同様な関係式(Z=V/I)が成立します。

しかし、電気抵抗のような電気エネルギーの損失は発生しませんが、Zの異なる個所では電流の反射現象が生じてしまいます。

このような結果から、ファラデーの期待した“能動伝送路と同じ波形の電気信号が受動伝送路に流れる”の結果を得る事が困難になります。

その為、この実験では、厚さ:2mm、幅:12mmとしっかりした銅板を使用し、先の4本の銅棒の伝送路系も、通常の電線では、両端を引っ張っても弛むことなく真っ直ぐに張る事が難しい為、径が5mmとがっちりした丸棒を使用しました。

 

 このような伝送路系を空気中に形成した事が、“ファラデーの無念を晴らす”だけでなく、『コロンブスの電磁気学』全体の理論形成の根底を担っているのです。

 

 

 ここで、本題の件に戻ります。

先ず、≪『コロンブスの電磁気学』の概略≫「7 新しいクロストーク論の確立」の後半部分をご参照頂きます。

 

但し、ここでは図の番号等を変え、一部補足しています。

又、ここで出てくるクロストーク(cross talk)との文言は、以前電話などで経験した「漏話」であり、更に派生して「混信」を意味しまが、本文では、能動伝送路へ入力された電気信号に対して、隣接する受動伝送路が受け取る電気信号を意味します)

 

 

「図:1」のようにアクリル板をはさんだ銅板にて能動伝送路受動伝送路を形成して能動伝送路に3GHzのクロック信号を1パルス入力した際の各部での電圧波形を「測定結果:1」に示します。




 この結果を見ると明らかなように、空気中を進行する電磁波は、誘電体(今回の場合はアクリル板)中を進行する電磁波よりも早いため、出力波もクロストーク波も、分裂して移行します。

(注)
1)アクリル板を挟んでセットした銅板の伝送路であるのに、アクリル板状の銅板同士が伝送路となり電磁波が進行する様子は、次の≪敬愛するマイケル・ファラデー(5) 縦列接合の登場≫に於いて、導体が存在すれば電磁波は、能動伝送路、受動伝送と区別することなく、それら全ての導体を縦列接合された伝送路として、流れてゆく旨を記述していますので、ご参照ください。

2)空気(誘電率:約1)中を進行する電磁波速度はほぼ真空中のそれに等しいのですが、誘電体(誘電率:ε
>1)内を進行する電磁波速度は1/√εに減少すると言われています、ですから、今回の実験では空気中を進行する電磁波速度が約30cm/ナノ秒に対して、アクリル板中のその速度は約20cm/ナノ秒でした。

3)空気中を進行する電磁波で生じる受動伝送路の波形がマイナス波形になっているのは、能動側の信号線(プラス電流)に対して受動伝送路側の信号線はマイナス電流を担当、グランド線ではその逆のプラス電流を担当している為と存じます。



 そして、当然ながら、その分裂の度合いは時間と共に増大します。

 この分裂の結果、信号波形は複雑に乱れます。

特に、受動伝送路の波形(クロストーク)の形状がより複雑となります。

 そして、その複雑化した形状が、「ファラデーの電磁誘導式」で求められたかのような形状(測定結果中、「この波形注目!」と示した部分)となるため、“クロストークはファラデーの電磁誘導式”に従うと錯覚し続けてきたのです。

 そして、この結果から新しいクロストーク論が確立できるのです。

 

 ここで、「ファラデーの電磁誘導式」から、一般的に能動伝送路(流れる電気信号の電圧がVとあらわされる場合)から受動伝送路が受けるクロストーク電圧波形vは次のように表されます。

 

 
この式の右辺の能動伝送路側の電圧波形が「測定結果:1」での出力波形とするとこの波形自身が分裂しているので、この波形の微分形がそれに対応するクロストーク波形となるのは難しいと存じますから、次の実験結果に着目して下さい。

 

 その前に、測定に用いた基板の写真を次に掲げます。

 

このように長さが90センチメートルもある伝送路系は一般的な電気基板では、その長さは異常ですから、90センチメートルより手前の位置での測定を行ってみたのです。

勿論、同じ周波数(3GHz)の1パルス信号を入力して「測定結果:2」を得ました。

 

即ち、能動受動両伝送路の始点(0cm)、30cm60cm、終点(90cm)、の各地点での、電気信号の進行に伴う、信号波、クロストーク波、能動受動各伝送路の信号線間、グランド線間の電圧波形を差動プローブで観測した結果です。

(尚、観測地点では、アクリル板の反対側同士の導体間電圧が観測可能となる穴(プローブ端子用)をアクリル板に設けました)

 

 この結果の始点から2番目の測定点(30cm)の測定波形を、能動伝送路のそれと、受動伝送路のそれとを比較しますと、先の式に合致する様な形状を呈しています。


 この件を、補足しますと、能動信号の山の形をした電圧波形の前半部分では、電圧は時間変化に対して序々に増大(微分値の増大)して、又、その山に近づくとその変化は小さくなって行き、その山の頂上では、電圧の時間に対する変化(微分値)はゼロとなり、その山を越すと今までとほぼ対称的な挙動を示します。
そして、この変化に対して、マイナス符号が付いています。

 

 

 

 

 更に、この実測結果に見るように、伝送路を進むに従って、信号波とクロストーク波に於ける分裂状況は拡大して行くことが確認出来ます。

そして、又、能動/受動各伝送路の両信号線間、両グランド線間の電圧波形は、先進波として同時進行している様子がはっきりと確認されます。

 

 ですから、ファラデーの時代より、どんなに進歩した測定器を用いても、現在一般的に測定や実用上使用されている電気配線基板(いわゆる導体が同一な雰囲気(空気中等)に置かれていず、空気並び樹脂などの複合的雰囲気下の基板)を用いては、伝送信号が能動と受動伝送路では異なった形で分裂してしまう為、能動伝送路と同じ電気信号波形を受動伝送路で感知する事は出来ないのです。

 

 では、前の拙文≪敬愛するマイケル・ファラデー(3≫の空気中にセットされた4本の銅の丸棒で形成された伝送路系では、全ての波形が時間的に合致して、今回の空気中のアクリル板(電磁波の進行速度が空気中より遅くなる)上にセットされた伝送路の場合は、何故先進波と後進波とに分裂するのでしょうか?

 

その原因は先に記述しましたように「信号線間」、「グランド線間」の電圧波形の進行状態が、能動、受動伝送路の先行波部を担っている事から分かります。

即ち、電気の流れは、従来一般的に信じ込まれている「電荷の流れ」ではなく「電磁波の流れ」が担っていると言う事なのです。

 

電流に起因する電磁波は、アクリル基板中のみならず、空気中でも伝播されるでしょう。

と言う事はファラデーが最初の推測「入力された電線から発せられた電磁波が連接する電線に電流を喚起するであろう」に合致した現象、即ち、「能動伝送路の信号線から受動伝送路の信号線へ、又、能動伝送路のグランド線から受動伝送路のグランド線へと電磁波が飛び、それぞれの電線に同じような電流が流れる」を考える事が可能となるのです。

 

このように、電流は電荷によって運ばれると言う従来概念を払拭し、電気は電磁波によって運ばれるとの立場に立ちますと、前の≪敬愛するマイケル・ファラデー(3 ファラデーの無念を現在の測定器で晴らす≫に紹介しましたように、空気中に設置された能動受動伝送路間では、同一波形の電流が流れる事実を抵抗なく受け入れる事が可能と存じます。

 

 

そこで、入力電線(能動伝送路)に電気信号が流れ続ける間、同形の電気信号が隣接電線(受動伝送路)に流れる実験を付けくわえさせて頂きます。

 

先の4本の銅棒からなる能動受動伝送路系に於いて、電気信号発生器(パルスジェネレータ)から、入力電線(能動伝送路)に1KHz75MHzのクロック信号(1パルスと連続パルス:500mV)を送り込んで、隣接電線(受動伝送路)の近端部での電圧変化を観測しました。

 

 

 この結果のように、クロック信号を連続的に、能動伝送路に入力してもその周波数が1KHzの場合では相変わらず、ファラデーの実験結果と同様に、受動伝送路では、能動伝送路での電気信号のオンオフ時の突起状の電圧波形しか観測されていませんが、周波数を75MHzと大幅に増大させると、1パルスの場合同様に、連続パルスの場合でも、同形の電圧波形を(連続的に)受け取っている事が分かります。

 

 何故このような事が可能なのかは「測定結果:3」で、1パルスの波形と、連続パルスの波形を比較すると直ぐに御理解頂けますが、その前に、前文同様な概念図を次に掲げましょう。

 

 1パルスの場合でも、能動伝送路で入力した電気信号を、受動伝送路に於いてマイナス反射を受けて入口部に帰ってくるまで入力し続け、そのマイナス波が帰って来た時点で、入力をストップします。

この結果、受動伝送路では、能動伝送路で入力された電気信号と同型の信号を傍受し続け、受動伝送路の末端からマイナス信号が返ってくる瞬間に、能動伝送路から受けるプラスの信号はストップしていますので、プラス信号を減じることなく、この帰って来たマイナス信号を、そのまま受け入れます。

 

 そして、連続波の場合は、このマイナス波を全て受動伝送路が受け入れた時点で能動伝送路に次のパルス信号が流れ始め、又、その結果、受動伝送路ではプラスの信号を受け始めます。

そして、マイナス信号を先と同様に受け取る現象が繰り返し行われます。

それが「測定結果:3」の75MHzの場合なのです。

 

(注)

1メートル長の空気中の伝送路を電磁波が往復するに要する時間は、

6.7ナノ秒=200cm/30cm/ナノ秒

一方、75MHzのクロック信号の発信時間(周期/2)も、

6.7ナノ秒=(1/75MHz)×(1/2

 

 

 それにしましても、斯くも見事に能動伝送路から隣接する受動伝送路の電気信号が受け渡されるのも意外と言えば意外です。

 

 素晴らしい著作『ファラデー(実験科学の時代)』の著者小山氏は、先の拙文≪敬愛するマイケル・ファラデー(2ファラデーの無念とゲーテの箴言(後人達の誤解)≫に引用させて頂きましたように、ファラデーとほぼ同時代を生きた文豪ゲーテの

“・・・数学的な理論や哲学的な理論のおかげで、認識は深化するどころか、かえって停滞させられてしまっているし・・・

との箴言を紹介して下さいましたが、

とりわけ、電磁気学のように、生まれたばかりの若い分野においては、数学もさることながら、自然の中に隠された真理を実験の工夫によって喚ぎ出す能力も、重要な役割を担うことになる。もう少し言えば、時代のこの段階では、数学なんか知らなくても、ファラデーのような天才が活躍する余地は十分にあったのである

と著作の中で記述されておられるのです。


 とても残念なことです。

此処まで私が実験して提示してきた事実は、ゲーテの箴言通りに、数学的処理では導き出すことは出来なかったのです。

ですから、

ファラデーが活躍した時代だけが小山氏の著作の副題である「実験科学の時代」ではないのです。

今も、「実験科学の時代」でありファラデーが活躍された時代同様に、ファラデーも十分に活躍できるのです。

 

 更なる実験で導き出される、次の拙文≪敬愛するマイケル・ファラデー(5) 縦列接合の登場≫にて記述する「縦列接合」の概念が、今回の実験結果の意外性を解く鍵となります。


(追記)

 次の拙文を書き上げるまでは、≪『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の概略≫の「6 縦列接合の登場」から「8 クロストークも縦列接合に起因」をご参照ください。


 

 

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