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敬愛するマイケル・ファラデー(3) ファラデーの無念を現在の測定器で晴らす

201019

宇佐美 保

 先の拙文≪敬愛するマイケル・ファラデー(2 ファラデーの無念とゲーテの箴言(後人達の誤解)≫に於いて、ファラデー(実験科学の時代)小山慶太著(講談社学術文庫)』から、ファラデーの次の実験結果を得たと引用させて頂きました。

 

半円形の軟鉄を二つ接合して環(リング)をつくり、それぞれの軟鉄に絶縁した銅線をコイル状に巻きつける。一方の鋼線の両端は検流計に、片方の銅線の両端は電池に接続する。こうして後者に電流を流すと、その瞬間、前者につながれた検流計の針が振れた──つまり、電流が発生した──のである。また、電池と鋼線の接続を切った瞬間にも、検流計の針が今度は反対方向に振れた




 

 そして、この結果に関して、著者の小山氏は、

ファラデーにとってかなり意外であったようである

と記述しつつも、

「ファラデーが電磁誘導を発見した」

と紹介しています。

そして、ファラデー以降のだれ一人として、この小山氏の紹介事実を疑う人もいなかったのでしょう。

ファラデーは“一方の電線に電流が流れている間は、
他方の電線にも、
その影響を継続的に受けて連続的に電流が流れる筈なのに
(次の概念図のように!)



(なのに先の概念図の如く)つないだり、切ったりした瞬間にしか流れないのが意外だ”

と思った筈なのに!

 

 そこで、私は、先の拙文で次のように記述しました。

 

このファラデーの推論は正しかったのです。

でも、残念な事にファラデーの時代の測定機では、この不思議な現象の正体を解明する事が出来なかったのです

今ファラデーが御存命なら、その原因を解明されたでしょう

何しろ、不肖、私が解明できたのですから!そしてその詳細は『コロンブスの電磁気学』又、それに続く『コロンブスの電磁気学』増補改訂版に記述しました。

 

 

 確かにファラデーの推論(電流のオンオフ時にしか他方の電線に電流が流れないことへの疑問、そして、本来なら他方の電線にも常時電流は流れ続ける筈だとの推論)が正しかったのです。

その様相は、先の拙文≪『コロンブスの電磁気学』の概略≫での「8 ファラデーの誤解」、≪『コロンブスの電磁気学』増改訂版の概略≫での「10 ファラデーの誤解」にても御理解頂けましょうが、両拙文を活用し、若干の補足説明を付け加えさせて頂きます。

 

先ず、当時の電池につないだ電線と、検流計につないだだけの電線を平行に設置するだけの実験装置に対して、電池の代わりに、現在の電気信号発生器に変えても、当時の検流計を現在の測定器に変えても、又、ファラデーがいかに偉大な科学者であっても、同じ結果となってしまいます。

 

では、どこを変える必要があるのでしょうか?

何故次のような装置を組んだかの理由は、後回しにさせて下さい。

(但し、電流に関しては、≪『コロンブスの電磁気学』の概略≫、更に≪『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の概略≫の「電気の流れ(シングルエンド的な流れではなく、伝送路的な流れ)」をご参照ください。

そして、小学校などで教わったように(次図をご参照ください)、“電気(プラスの電荷)は、電池のプラス側から、1本の電線を通して、電池のマイナス側に流れ、それに対抗してマイナスである電子(マイナスの電荷)が、電池のマイナス側からプラス側に流れる”のではなく、



家庭内の電気製品のコードなどに見られるように“電気は、2本の電線を対として流れるのです”

このような電線を「伝送路(伝送線路)」と呼称します。

 ですから、小学校で教わった1本の電線は、この2本の電線が平行にセットされた「電気製品のコード」のような伝送路の間を引き裂いて広げた状態と解釈できるのです。

(このような状態の電線も、勿論、伝送路と呼びます)


(尚、この件に関しては、自著『コロンブスの電磁気学』増補改訂版をご参照ください。
例えば、電線の間隔が一定ではありませんので、その都度、その伝送路の特性インピーダンスが変化してしまい、それに伴い電気の進行は多重反射を余儀なくされ、電気信号の形状は大幅に変化してしまいます)

 

先ずは、(私の推測ですが)ファラデーが予測したように、電流を流した電線(能動伝送路)の近傍に設置した電線(受動伝送路)にも同じように電流が流れる事実を示します。

 

その為には、「写真(14)」に見るように、4本の1メートル長の銅の丸棒(5mmφ)を、導体間隔が0.5mm(幅の狭いビニールのスペーサーでそれらの位置関係を数箇所固定)して、且つ、空気中に糸でもって、「写真:12」の木製の枠組みに吊しました。

(現在、一般的な電気測定は、ガラスエポキシ基板に銅箔で電気配線を形成して行いますが、これでは今回のような結果は出ません。空気中に電線を配置した事が今回の実験の最も大事な点です)

 

 

 

 そして、「写真:3」に見ますように、上側の2本の銅棒を電気信号入力する側の電線として(能動電線、即ち、能動伝送路)、電気信号発生器(パルスジェネレータ)からの電気信号を、その左側の末端(入力端)から入力しました。

下側の2本の銅棒を電気信号を受け取る側の電線(受動電線、即ち、受動伝送路)とし、その左側の末端(近端)を抵抗(50Ω)で、両者を接続しました。

 

 一方、右側の各々2本の銅棒の末端では、「写真:4」のように、上側(出力端)、又、下側(遠端)を各々抵抗(50Ω)で結びました。

 

 このような状態で、電圧波形測定機であるオシロスコープに接続された(差動)プローブの2本の先端を銅棒(伝送路)の端部に接触させて、それらの場所での電圧変化を測定しました。

 

 先ずは、周波数が1KHz(電圧保持時間が500マイクロ秒=500/10-6秒)のクロック信号(直流の断続的(パルス的)な流れ)1パルス入力して、銅棒よりなる電線(伝送路)の各所(能動伝送路の入口部(入力端部)、末端部(出力端部)、受動伝送路の近端(能動伝送路の入力部の横)並びに遠端部(能動伝送路の出力部の横))で、電圧をプローブの先端を接触させて検出しました。

 

 

 この検出結果は、ファラデーが得た結果と全く同じでしょう。

何しろ、入力側の電線(能動伝送路)では、入力波形が入力部並び出力部で検出されているのに、隣接する電線(下側の銅棒セットである受動伝送路)では、近端(入力部と同じ位置)と、遠端(出力部と同じ位置)で、クロック信号の立ち上がり部(電池のスイッチを入れた時に相当)と、立下り部(電池のスイッチを切った時の相当)にのみ、僅かながらの電圧の突起が検出されているだけです。

 

 ところが、入力する1パルスのクロック信号の周波数を500MHzに、即ち、電圧保持時間が1ナノ秒(=10-9秒)と短くするどうでしょうか?

その結果は「検出結果:2」をご覧ください。

 

 

 いかがですか!?

ファラデーが予期した結果が得られているではありませんか?!

入力信号の電圧保持時間が1ナノ秒であるのに対して、隣接線の近端部で検出される電圧波形も(絶対値は5分の1程度に減少していますが)同一形状の電圧波形(電圧保持時間が同じく1ナノ秒)が検出されているのですから!!!

 

では、同じ装置、測定装置で、入力信号の電圧保持時間を短くすると、何故、隣接線(受動電線、即ち受動伝送路)でも、同様な電圧波形が観測できたのでしょうか?

 

 その秘密は、入力されてから約6ナノ秒強の時間に、マイナスの電圧波形が近端部で観測されている点にあります。

 

 と申しましても、このマイナスの電圧波形はどのようにして近端部(受動伝送路)で観測される事になるのでしょうか?

 

 そこで、先の「検出結果:1」は近端部のみのいわゆる定点観測でしたので、観測位置を変えて受動伝送路の波形の変化を観測しました。
尚、
1GHz(往復する波形が重ならないように電圧保持時間が0.5ナノ秒とより短くなるようにしました)の1パルスを入力して、隣接線(受動伝送路)を能動伝送路の入口部近くの受動伝送路の近端部から遠方(遠端)へ向かう電気信号の変化を、近端部からの距離0mm25mm50mm75mm1mと観測位置変えた場合の観測結果を「検出結果:3」掲げます。

 

 尚、実測に用いた銅棒による電線系(伝送路系)は空気中に設置しましたので、これらの電線(伝送路)を電気信号が進行する速度は、空気中を電磁波が進行する速度(光の速度:約30万キロメートル/秒)、即ち、概略30cm/ナノ秒です。

 

 従って、この検出結果から、近端部からの距離0mmでの電圧波形と同じ波形が、(能動伝送路での電気信号の移動につれて)255075cmの地点でも、約0.8ナノ秒(=25cm/30cm/ナノ秒)毎に観測されています。

しかし、近端部からの距離が1mの地点(遠端部)では、殆ど電圧波形は消滅して、プラスマイナスの符号が逆転したマイナスの電圧波形が近端部へ向かって順次観測されて行きます

 

 そして、近端部では、空気中に設置した1m長の伝送路を電気信号(電磁波)が往復する時間に相当する時間である約6ナノ秒強の後、このマイナス信号を検出しているのです。

 

 この結果どのような現象が発生するかをより明確にする為に、500MHz並びに10MHzのクロック信号を1パルス入力した場合の測定結果を次に掲げます。

 

  

 この結果から、500MHzの場合は当然ながら「検出結果:2」と同様に、入力から約6ナノ強秒後に近端部ではマイナスの電圧波形が観測されています。

 

そして、10MHzの場合では、近端部に於いて、この時間帯(約6ナノ強秒間)並び、入力信号が消えた後に、同じ時間帯(約6ナノ強秒間)で、電圧波形が検出されています。

但し、後者の場合はマイナス波形として検出されています。

 

何故このような現象が発生するのでしょうか?

 次の受動伝送路の近端部での定点観測結果に対しての、概念図を(特に、受動伝送路の末端(遠端部)へ行きマイナス反射を受けた後、再度近端部に戻ってくるマイナスの電圧波形の当初のプラス波形への影響力(「500MHz(影響力なし)」と「10MHz(影響力大)」の相違))を、ご覧頂ければ、この謎が氷解いたします。

 

概念図

  

 このように、隣接線の近端部には入力線に電気信号が入力されている間は、同型の電気信号波形が観測され続けているのですが、これら電線(伝送路)は、無限長ではありませんから、必ず末端があります、そして、この末端でマイナスの反射を受け、近端部へ逆流して帰ってきますので、上の「概念図」に見ますように、この反射波(マイナス)が帰ってきた瞬間から、隣接線での観測値は、差し引きゼロとなってしまいます。


 この様子(ほぼ500MHz、10MHz1KHzに近い入力波の場合)を次に掲げますアニメーションでご覧下さい。
(尚、「受動伝送路を進行する電圧波形」では、観測点の通過前後の信号波形も透明化して表示しました。
又、「オシロスコープに表示される電圧波形の内、「緑枠の白地部分」は『プラス波形マイナス波形の合算でゼロボルト」と観測される部分です。
勿論、全くの白地部分は、プラスもマイナスも両信号とも観測されない部分です。
又1KHz相当の場合は、10MHzの相当場合に比べ何万倍もの駒数が必要なので、途中をカットして表示させて頂きます。
この場合は、10MHz相当の場合の「オシロスコープに表示される電圧波形」の[緑枠]の登場の先端部分は同じ個所(伝送路を往復する時間)であって、その枠の長さは、1KHzのクロック信号の電圧保持時間マイナスこの往復時間相当となり、青色のマイナス波形はその長くなった「緑枠」の後ろに着いてきます

 

又、能動伝送路に電気信号が現れると同時に、受動伝送路には、遠端並びに近端へと進行する同形の電気信号が発生しますが、今回は、近端部も遠端部同様に終端処理していますので、この近端へ向かう電気信号は、直ちにその終端抵抗で消滅し、その電気信号の動きは、図には現れて居りません。

尚、各末端の処理状態を(抵抗を外して、オープン状態或いはショート状態へと)変化させても、どの場合も、受動伝送路の近端部での観察結果は、(全く同じではないにしましても)同様な結果が得られます。この件に関しては、『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の「第9章 第3項」をご参照ください)



 
 ここで、500MHと10MHzのアニメーションの最終部分の各1コマを参考の為に次に掲げます。

500MHのアニメーションの最終部分の1コマ 10MHzのアニメーションの最終部分の1コマ


 これらのアニメーションの最終部分の各1コマは、先に掲げた「検出結果:4と「概念図」に合致する事が分かります。

 次は、低周波数(1KHzの場合に相当のクロック信号を1パルス能動伝送路に入力した際の受動伝送路の様相をアニメーションでご覧下さい。



 この1KHzのアニメーションの前半部分と最終部分の各1コマを参考の為に次に掲げます。

前半部分の1コマ 最終部分の1コマ


 更に、この「アニメーション」を「検出結果:1 1KHzの場合」(この検出結果では、ファラデーの実験と同様な結果(電流をオンオフした瞬間にしか隣接線で電圧が検出する事が出来ませんでした)と比較してみます。

先の検出結果を表示した際は、1KHzのクロック信号の電圧波形が検出画面に全て収める為に、時間軸単位を100マイクロ秒/目盛としましたが、今回は、上記のアニメーション同様に、その時間単位を10MHzの場合同様(5ナノ秒/目盛)として、時間軸(横軸)を拡大して(途中経過分をカットして)表示します。

 

この結果、入力の立上り時に、6ナノ秒強ほどの間、はっきりした丘状の電圧波形が、又、入力信号がOFFとなった時点から、同じく6ナノ秒強ほどの間、はっきりしたマイナスの丘状の電圧波形観測されている事が分かります。

 


 この事実は、上掲のアニメーション通りであり、又、先の「概念図」の「この間も流れ続けるプラス/マイナス
の電流が相殺してゼロ」となっている時間帯が、10MHzの場合(約44ナノ秒=50−約6)から、1KHzの場合(約500マイクロ秒=500マイクロ秒−約6ナノ秒)へと大幅に増えただけであり、両者に原理的な相違が無い事が分かるのです。


(尚、能動受動2組の伝送路のそれぞれの末端を今回は抵抗で結合しましたが、抵抗を用いずにそのまま短絡(ショート)状態としても、何も接続せず開放(オープン)状態としても、受動伝送路にはマイナスの反射波が帰ってくるのです。
この件は、又、クロストークが近端、遠端クロストークへと別れる件も、記述が複雑になるのでカットしましたが、詳細は、自著『コロンブスの電磁気学』増補改訂版をご参照ください。)
 

 

 以上で、本文の冒頭で、「ファラデーは“一方の電線に電流が流れている間は、他方の電線にも電流が流れる筈なのに、つないだり、切ったりした瞬間にしか流れないのが意外だ”と思った筈なのに!」と私が想像したファラデーの無念を晴らす事が出来たと存じます。


 

それにしましても、私が使用させて頂いた測定器は多くの方々も御使用されておられる筈です。

それなのに、何故今まで、この「ファラデーの無念」を誰も御晴らしにならなかったのでしょうか?

(又、出来なかったのでしょうか?)

 

この件に関しては,次の拙文≪敬愛するマイケル・ファラデー(4 ファラデーの無念が今まで晴らせなかった理由≫にて、書かせて頂きたく存じます。

 

 

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