歴史は私達の貴重な財産です(瀬島氏、9.11同時多発テロ)
2007年9月19日
宇佐美 保
2007年9月5日付けの朝日新聞の亡くなられた瀬島龍三氏に関する記事を読み驚きました。
先ずは、早野透氏(朝日新聞コラムニスト)による「評伝」を抜粋させて頂きます。
戦前は陸軍の中枢にかかわり、戦後は政財界の参謀役。05年7月、瀬島龍三氏に会ったとき、93歳の背筋をしゃんとして2時間、波乱の人生を静かに語った。 1941年12月の日米開戦の若き大本営参謀。 ・・・ 戦局憂色、満州の戦線に移って敗戦、シベリアに11年抑留されて、再建日本に帰国した。シベリア抑留は、ソ連軍との密約ではないかという疑問は断固否定し続けた。過酷な捕虜体験は、瀬島氏の人間観を深くする。 「満州から持参したユーゴーの『レ・ミゼラブル』を何度も読みました。人間は二つの中心を持つ楕円体と書いてあります。物質的と精神的。神と悪魔。人間は悲しく、また尊いものです」 商社伊藤忠に迎えられ、岸信介、河野一郎、中曽根康弘氏らに近づき、戦後賠償や軍用機商戦に活躍する。そこは利権と裏金の世界だったけれど、驚かなかった。 「いたずらに清くあろうと狭くならずに、政治の現実はもっと幅の広い、良いことも悪いこともたくさん包蔵しておるもんだという観点で考えないとファシズム的になっちゃうんですね」 軍人の合理性と善悪共存の人間観が、その後の瀬島氏を支える。中曽根氏に誘われて「臨時行政調査会」を仕切って行政改革の参謀役に身をおく。 |
「商社伊藤忠」、「岸信介、河野一郎、中曽根康弘氏ら」によって重用された瀬島氏は、自己の中に「物質的と精神的。神と悪魔」が共存するのを放置しながら、「戦後賠償や軍用機商戦」も「戦争」と解釈したからこそ、「そこは利権と裏金の世界だったけれど、驚かなかった」と言い放ったのでしょう。
このような瀬島氏を重用した財界、政治家たちの見識を悲しく思います。
心中に「物質的と精神的。神と悪魔」が共存することを自覚しつつ、「物質的、悪魔」を、微力を振るい、少しでも、心中から追い出そうとしているのが、私達の人生ではないのでしょうか!?
更に、紙面からの引用を続けます。
・・・ 「あの戦争が自存自衛の戦争だったという考えは変わっていません。やはり国民みんなが祖国を愛するということでなけりゃいかんと思いますね。シベリアでも日の丸を見ると涙した」 ・・・ 富山の農家の三男坊に生まれ、陸軍大学校の首席だった瀬島氏は、戦後もまた装いを変えて、軍人人生を歩んだのかもしれない。戦後日本の繁栄の裏面で、軍人の人脈と組織能力が生きたのか。 幾つかの歴史のナゾを残し、「国家に尽くす」参謀を自負しつつ。 |
「負けると分っていた戦争」を「あの戦争が自存自衛の戦争だった」と認識続けた瀬島氏を、「陸軍大学校の首席だった」そして「1941年12月の日米開戦の若き大本営参謀」と早野氏は、「瀬島氏」に敬意を払っているようですが、私はおかしいと存じます。
「1941年12月の日米開戦の若き大本営参謀」が「あの戦争」は、負けると判断できなかったのなら、又、負けると判断しながらもその戦争を回避できなかったのなら、その人物に「国家に尽くす」参謀を自負」する資格はありません。
更に、問題なのは、「幾つかの歴史のナゾを残し、・・・」です。
この件に関して、同紙面から3氏の見解を掲載させて頂きます。
全国抑留者補償協議会の寺内良雄会長は 「シベリア抑留について、ソ連との交渉に直接関わった数少ない人だっただけに、もっと証言していただきたかったという思いは残る。 |
秦郁彦さん(現代史家)の話 戦前、戦中は旧日本陸軍を代表する参謀、戦後も財界、政界の参謀の役割に徹しようとした。腕をふるい、目標を実現するためにはナンバーツーのほうがいいと自覚していた。その分、彼の業績をきちっと評価するのは難しい。惜しいと思うのは参謀本部に6年いたが、そのとき見聞したことについて必ずしもすべ語っていないことだ。 |
共著作に「沈黙のファイル──『瀬島龍三』とは何だったのか」があるジャーナリストの魚住昭さんの話 シベリア抑留や日韓賠償など、歴史の大舞台をずっと歩いてきた人でありながら、何もしゃべらずに逝ってしまった。(先の戦争を)白衛のためだったと、彼は正当化し続けた。自分の戦争責任に向き合って生きたとは、私には思えない。 |
この3氏は良くぞ言ってくれた!と、私は存じます。
科学の世界では、次に起こるべき事象は、理論的に推測できます。
そして、この理論は、多くの実験から、又、観察された現象から確立されます。
(ですから、私は新たな電磁気学(『コロンブスの電磁気学』)を確立するために多くの実験を繰り返しています)
しかし、社会的現象を予測する為の科学理論のような理論はありません。
なにしろ、社会的現象を実験する事は(人道的に)不可能なのですから!
そこで、その理論の代わりに「歴史に学べ」の言葉が存在します。
従いまして、先の拙文《橋田壽賀子氏と戦争とパール判事》にも抜粋させて頂きましたが、朝日新聞(2007年8月13日〜17日)に連載された『人生の贈り物 脚本家 橋田寿賀子(82)』中での、橋田氏の次の談話に驚いたのです。
私は軍国少女で「お国のために燃えつきよう」と燃えていましたしね。 玉音放送を聞いた後は、アメリカ軍がすぐに上陸してくると聞き、3日3晩徹夜で資料を燃やしました。本当に悲しくて悔しくて。いっそ死のうと思い詰めていた。 |
更に、拙文《橋田壽賀子氏と戦争とパール判事》の一部を再掲します。
この「私は軍国少女」は、兎も角(?)、「3日3晩徹夜で資料を燃やしました」に対して、橋田氏は何の反省も無いのです。
不思議で不思議でなりません。
橋田氏も東京新聞(2007年8月14日)に掲載された、保阪正康氏(ノンフィクション作家)の対談記事をお読みになっては如何でしょうか?
(その一部を抜粋させて頂きます)
豊田 なぜ記録が十分でないことをいいことに、史実がなかったと言いだせる風潮が強まるのでしょうか。 保阪 これは安倍さんがつくり出した政治的潮流の一環だと思います。政治指導者の発言によって、それにつながる歴史観は勢いを持ちます。同時に、安倍さんを支える国民の側にも不勉強さや鈍感さがあります。従軍慰安婦問題でも、われわれには軍の関与を示す資料はないと言う資格はありません。なぜかというと、昭和二十(一九四五)年八月十四日の閣議で、行政や軍事機構の末端まで、資料を焼却せよという命令を出したんですね。全部燃やしているわけですよ。日本の戦争に関する資料はほとんど残っていない。戦争責任の追及を恐れたんでしょうが、次の時代に資料を残して、判断を仰ぐという国家としての姿勢が全くなく、燃やせということを平気でやる。そうしたことを知らないスカスカの歴史認識、史実に対する不勉強を、国際社会に対して平気で言う神経は僕には信じられません。 |
このように大事な資料(歴史)を焼却する日本は「国」と言えるのでしょうか?
そして、国の重要な役に就き、多くの歴史的な事象に立ち会っていながら、その歴史を後世に伝えずに墓へ入っても、その無責任さを問わない日本は「国」と言えるのでしょうか!?
瀬島氏は、民間人ではなく、国家の人間として、歴史的な事象に立ち会っていたのです。
国民からの税金を口にしながら、歴史的な事象に立ち会っていたのです。
従って、瀬島氏には、彼が立ち会った歴史的な事象を後世に伝える責任があった筈です!
このような責任を放棄する人は「税金泥棒!」と呼ばれてしかるべきです。
それ以上に、「歴史という財産の泥棒!」、「人類の未来の泥棒!」と非難されるべきです。
2001年9月11日の米国では、「同時多発テロ」との呼ばれている事件が起こるや、ブッシュ大統領は直ちに“これは、ウサマ・ビンラーデン率いるアルカーイダのテロ行為”と断定し、彼の「テロとの戦争!」の掛け声と共に、人々は口々に「世界は変った!」と叫び、アフガニスタンに侵攻しました。
日本の国会では2001年11月2日に「テロ特措法」を成立させ、海上自衛隊がインド洋(公海)に派遣され、護衛艦(イージス艦)によるレーダー支援や、補給艦による米海軍艦艇などへの給油活動が行われています。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』参照)
とても私は、不思議に思います。
「同時多発テロ」には多くの疑問点(先の拙文《やっぱりおかしい9-11同時多発テロ事件》、《9・11の同時多発テロを今思うと》など御覧下さい)が存在しているのに、何故、ブッシュ大統領は、犯人が「ウサマ・ビンラーデン率いるアルカーイダ」と断定したのでしょうか?!
更に、事件後、約1ヶ月の10月12日の第153回国会(「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会」)に於ける会議録には次のように記されています。
小泉内閣総理大臣 今回のテロ行為とウサマ・ビンラーデン率いるアルカーイダとの関係につき、昨日の審議の際にさらに御説明する旨申し上げたので、以下のとおり御報告する。 一、政府は、日米首脳会談におけるブッシュ大統領の私への説明を初め、米国との累次の情報交換において説得力のある説明を受けている。その詳細を明らかにすることは、事柄の性質上、また、米国との信頼関係の観点からできないが、・・・・・・(以下は、次の拙文に掲げ、検討させて頂きます) |
「同時多発テロの犯人がウサマ・ビンラーデン率いるアルカーイダ」である事に関して米国から受けた「説得力のある説明」に対して、確か、小泉氏はテレビで、“犯人逮捕に支障をきたすので、今その内容を公にする事は出来ない”と発言していたと存じます。
あれから6年経って、いまだにウサマ・ビンラーデンを拘束できていません。
だとしたら、今の時点なら、米国から受けた「説得力のある説明」を公にしても、彼らの逮捕に支障をきたす事は無いはずです。
ですから今、「テロ特措法(2年間の時限立法)」の延長を審議する際にでも、小泉元首相は、国会で、この“米国から受けた「説得力のある説明」”を報告する義務があります。
万一、現時点での公開が不可能でも、公文書化し、後年、公の眼に触れる事が出来るように配慮する義務があります。
これらの義務を小泉氏が果たさないなら、小泉氏は「愛国者」ではなく「売国奴」との汚名を負うべきです。
歴史の大転換点である「9.11同時多発テロ」にかかわる歴史の一部を隠蔽する事は許されない行為です。
以下は、次の拙文《小泉元首相は「同時多発テロ」の証拠を開示すべき》に続けたく存じます。