世界的な発電量は、自然エネルギーが原子力を抜いた(1)
2011年6月10日
宇佐美 保
山田厚史氏(AERAシニアライター)の司会で、6月3日に放送された、朝日ニュースターの「別冊 朝日新聞」では、ゲスト出演なさった北澤宏一氏(日本学術会議 東日本大震災対策委員会エネルギー対策の選択肢分科会委員長 科学技術振興機構 理事長)が、大変素晴らしいお話を披露して下さいましたので、ここにその一部を紹介させて頂きます。
1)2010年に世界の自然エネルギー発電設備容量は381ギガワットとなり、原子力発電を上回った
2)従来の「交流送電」を「直流送電」に代えて、電力ロスを削減して長距離(例えば、北海道、九州間)送電を可能にする。
(「直流送電」が「交流送電」より有利な理由は、拙文≪『コロンブスの電磁気学』増補改訂版の概略≫「11 表皮効果は誤解です」を、更に詳しくは、≪『コロンブスの電磁気学』の要旨(18) 直流送電の交流送電に対する優位性≫を書きましたので、ご参照ください)
この「直流送電」関しては、スウェーデンでは、国土の南北間が2000キロに及ぶが、この間の送電は直流で行っており、この技術を中国に輸出し中国は東西を直流送電で結ぶ予定、サハラ砂漠の太陽熱を利用した電力を100兆円かけて欧州へ直流送電線を敷設する予定、又、北海道で余った風力発電を直流で九州まで結ぶべきとも語っておられました。
(尚、番組中にお示しくださったグラフなどを此処に転載させ得て頂きたく存じ、WEBにて「北澤宏一 風力発電」で検索しましたら、SciencePortalのページ「日本記者クラブ主催シリーズ研究会「3.11大震災」(2011年5月20日)講演、質疑応答から」
で次の記事を拝見しましたので、この記述を引用させて頂きつつ、先のテレビ番組のお話を紹介させて頂きたく存じます。
又、図表はテレビの画面を私がデジカメで撮影しました)
更には、随所で、朝日ニュースター「ニュースにだまされるな!:これからのエネルギー政策をどう考えるか」(6月4日)から各氏の発言を引用させて頂きます。
原発ないと日本は本当にやっていけないか 日本の復興期で産業規模の小さかった1950-60年代に日本が原子力発電を導入したのは主要先進国のすべてが受け入れたことを考えても成功であったとも言えよう。しかし、3月11日の東北地方太平洋沖地震を契機に「卒原子力」の選択肢も生じた。 原子力をやめた場合、国民が負うコストはどれくらいだろうか。国内電力の3割を占める原子力発電を現在、市販されている再生可能エネルギーの中で最も高価な家庭用小型太陽電池ですべて置き替えたとして家庭の電気料金負担がどれだけ増えるか試算してみた。1世帯(2.65人)当たり、毎日、缶ジュース1本、130円の出費程度でしかない。 番組では、ここで北澤氏は、発電コストの比較を次図で説明されます。 (この図から、風力発電コストが現在でも十分安価で、諸コストを加味した原子力よりも安いようです。) この試算は太陽電池のコストを1キロワット時当たり42円で計算したが、この3年ほどの太陽電池の値下がりは急速で、大型設備ではキロワット時当たり12セントで購入すると改定した国も出て来ている。もはや「太陽電池は高い」というイメージはあてはまらなくなった。従来のシリコンと全く異なる材料から成る2種類の太陽電池(昭和シェル石油のCIGSと三菱化学の有機太陽電池)が日本で開発され、年間60%成長を見込む世界市場に向けて量産体制が整えられた。従って、実際の家庭の電気料金負担はさらに少ないと予想される。 |
ここで、「昭和シェル石油のCIGS」を検索しましたら、「昭和シェルとホンダ,CIGS化合物太陽電池の量産開始 2007/11/26 山根 小雪=日経エコロジー 出典:日経エコロジー 2007年11月号 46ページより」
に次のように記されていました。
太陽光発電は、シャープや京セラといった電機メーカーが生産規模で世界のトップを走ってきた。だが、ここへ来て電機メーカーではない“異業種”が太陽光発電に名乗りを上げた。昭和シェル石油とホンダだ。 両社が取り組むのは、現在の主流であるシリコンを使う太陽電池とは別の方式。銅(Copper)とインジウム(Indium)、ガリウム(Gallium)、セレン(Selenium)の4元素からなる「CIGS」という化合物を使ったものだ。半導体と太陽電池市場の急伸に起因するシリコンの供給不足は2010年ごろまで続くとも言われる。その間に、原材料の供給不安のないCIGSが、一定のシェアを獲得する可能性は十分にある。 いち早く生産を開始した昭和シェル石油の子会社の昭和シェルソーラー(東京都港区)は、2006年末に年産2万kWの宮崎第1工場を稼働させ、今春から「ソラシス」の商標で出荷を開始。生産ラインの調整も進み、7月には量産体制に入った。さらに同社は150億円をかけて2009年に年産6万kWの宮崎第2工場を建設する計画だ。一方のホンダは、今年6月からパイロットラインで生産した太陽電池を関東圏で試販しており、10月中にも太陽電池の生産・販売を担う子会社のホンダソルテック(熊本県大津町)が2万7500kWの量産ラインを稼働させる。 |
更には、次のページも訪ねる事が出来ました。
ソーラーフロンティア株式会社は昭和シェル石油株式会社(5002, T)の100%子会社であり、CIS薄膜太陽電池の生産・販売を行っています。世界最大規模となる宮崎県の第3工場(国富工場:年産900MW)は、2011年2月より商業生産を開始しており、2011年夏頃にはフル生産体制に移行する予定です。既に稼働している宮崎第1工場および宮崎第2工場と合わせて、約1GW(1,000MW)のCIS薄膜太陽電池の年産能力の確立を目指しています。
…… |
次に、「三菱化学の有機太陽電池」を検索しましたら、次の「株式会社三菱ケミカルホールディングス」サイトを見る事が出来ました。
世界初の塗布変換型有機太陽電池開発 曲げた状態で動作の確認に成功p型とn型の半導体を接合して光エネルギーを電気に変える太陽電池。その市場規模は、現在2兆−3兆円、2015年には10兆円に達するといわれています。 現状、住宅屋根に使われている太陽電池は、ガラス基板に結晶シリコンの半導体を載せたもので、市場の9割近くを占めています。 これに対し、三菱化学は材料も製造法も異なる、塗布変換型有機化合物を塗布する太陽電池(OPV)を世界で初めて開発。新開発のOPVはフィルム基板の上にBP(ベンゾポルフィリン)=p型、FLN(フラーレン誘導体)=n型の2種類の有機半導体を塗料のように塗って製造。ガラス基板が不要で各層がナノサイズの薄さになるため、従来製品に比べて重さ1/10以下と非常に軽い上、柔軟性が高く、簡単に曲げられます。従って工場や駅舎のスレート屋根等、重い太陽電池パネルを設置するには強度の足りない建物にも設置可能なほか、自動車にも貼れるなど、太陽電池の用途が大きく広がります。また、輪転機で印刷するように量産することも可能で、製造コストを大幅に下げることができます。 日本が風力、小水力、バイオマス、地熱、太陽光、波や海洋などの自然エネルギーを拡大しないのは、電力料金が上がって国際競争力を失うから、というこれまでの通説は妥当だろうか。2010年に世界の自然エネルギー発電設備容量は381ギガワットとなり、原子力発電を上回った。風力発電の設備容量だけでも原子力発電に近づいている。世界の自然エネルギー投資は2010年に20兆円とこの3年で5倍に増えた。原子力発電推進に熱心とみられていた中国が、再生可能エネルギー投資で世界一になった。再生可能エネルギーに対する熱が冷めている日本の投資額は、欧米諸国、中国、ブラジル、インドより下回り、世界20位以下となっている。 |
実際番組中示された次に掲げます「風力発電の累計設置量」では、最近の急激な伸びが認められます。
特に中国(この私の写真の色(赤と橙色)からではでは、ドイツと識別しにくいのですが)は、トップに位置しています。
原発1基で100万KWであることを考えると、この風力の4500万KW(横軸)がいかに大きいかが分かります。 又、中国は原子力推進していると見られていますが、今では風力発電量は世界一で、技術も世界一、その技術を輸出ビジネスと考えている。 風力発電では、ギヤレス風車、風レンズ風車等の工夫が取られ、海上発電も脚光を浴びている。 この海上風力発電(浅い海では海底に柱を打ち、洋上では筏タイプ)では英国が先行しているが、日本の技術(三菱重工)に着目して、新しい成長産業と認識している。 |
この風力発電に関しては、数週間前にある方から、「ゼナシステム:風洞発電 WIND TOWER」をどう思いますか?
とのメールを頂きましたので、私は、“高層ビル近くで発生するビル風に悩まされるので、その様な風が利用できると考えられるので、素晴らしい発電方式ですね!”と返事しました。
更に「再生可能エネルギー種別投資比較」では、目覚ましい風力、太陽光の伸びが認められます。
このように、「再生可能エネルギーの投資額」は、3年で5倍のペースで拡大している。 日本は、「自然エネルギーの発電技術」は優れていても自国で使わず、輸出しているだけ。 その背景として、設備投資した時点での設備費の価格に応じた価格で電力会社が買い取り、設備費が下がっても(例えば太陽電池発電などのように)その価格を固定化したまま電力会社はその値段で買い取る「固定価格買取制度」を政府が決め、その分高くなる電気料金は納得して国民が負担している。 |
この「固定価格買取制度」に関して、朝日ニュースター「ニュースにだまされるな!」では、ゲストの飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)が次のように語っておられました。
ドイツでは、1990年に制定され、この制度は85カ国(地方)で実施されており、アジアでも、タイ、マレーシア、フィリピン、台湾、インドネシアも実施されている。 日本での「全量固定価格買い取り制度」は、地震による原発事故発生の当日(3月11日)の午前中に閣議決定され、4月5日に国会に持ち込まれ、今回の(国民を愚弄した)不信任案騒ぎがなければ6月中には(今でも可能性はあるが)成立していた。 |
ここで、『KAN−FULL BLOG:「《次の時代》(1):私と風力発電」』に記された菅首相の思いを掲載させて頂きます。
政府は今国会に、《次の時代》への大きなステップとなる法案を出しています。その伏線は、今から30年余り前にさかのぼります。 私は国会議員に初当選した1980年の暮れ、多くの市民団体を視察しに、アメリカに出かけました。その一環で、何十種類もの風力発電が試験運転されているウィンド・テスト・センター(デンバー郊外)を訪れました。 「発電された電気はどうするのですか」と聞くと、「送電線に逆送されて、電力会社に売っている」という返事。それなら、自家消費しないときの発電も、有効に活用できます。そこで、帰国して早速、日本でも同じことができないかと取り組みましたが、電力会社による買い取りを制限する「電気事業法」の壁にぶつかってしまいました。 国内でも、科学技術庁(当時)が「風トピア計画」という風力発電の試験プロジェクトを始めたので、私も応援する立場から国会で取り上げました。 三宅島に東電が設置した、2基の大型風力発電機も視察しました。しかし結局、「採算性がない」という結論で、計画は終了してしまいました。 −−−私が初当選して、30年余。この間、風力や太陽光発電は、電力会社からは邪魔者扱いされ、その結果として、せっかく優れた技術を持ちながら本格的な開発ができず、ヨーロッパ諸国に比べて大きく立ち遅れてしまいました。今回の原発事故を契機に、エネルギー基本計画を白紙から見直し、風力や太陽光発電などの自然エネルギーを、《次の時代》の基幹的エネルギーとして育てることにしたいのです。 その為の大きなステップとなるのが、「自然エネルギーによって発電した電気を固定価格で買い取る」という制度です。これが出来れば、新人議員の時に私がぶつかった法の壁は、突破できます。そこで、固定価格買い取り制度の法案を、閣議決定にまで漕ぎ着けました。今年の3月11日のことです。しかし、その当日に、大震災は起こりました。 このために少し遅くなってしまいましたが、この法案は、今の国会に出しています。この法案を成立させ、早期に採算が取れる水準に価格を設定すれば、風力や太陽光発電は、爆発的に拡大するはずです。 |
そして、
この「再生可能エネルギーへの投資額」を国別に見ますと、やはり中国が他国を圧倒しています。 |
設備する発電施設を担保に融資するという「アセットファイナンス」が発達している中国(並び、米国)が他国を圧倒している。
(この私の写真では、分かりにくいのですが、一番が中国、後は、米国、Rest of EU-27、ブラジル、ドイツ、イタリア、スペイン、カナダ、インド、メキシコ、英国、オーストラリア、トルコ、フランスの順、日本は、この最後にも顔を出していません)) 再生可能エネルギーの利点は、これに使用するエネルギー代は無料であり、一方、火力、原子力などでは、資源の争奪戦の為価格は高騰して行く。 このような背景で、今や「再生可能エネルギー産業」は、「基幹産業」となっている。 中国の国民一人当たりの再生エネルギーへの投資額は、日本(国民一人当たりのGDPは中国の10倍)を上回っている。 |
更に、
福島原発以降の世界の情勢は、次図のように2つに分かれてはいます。
しかし、「原発依存は変えず」の英国、フランスでも、2020年に向けて電力の20%以上を「再生可能エネルギー」にする目標を掲げている。
北澤氏“あとから追いかけて行く日本の立場からでは、菅さんの言葉になります。” |
更に、「ニュースにだまされるな!」では、ゲストのミランダ・シュラーズ氏(ベルリン自由大学教授・ドイツ安全エネルギー倫理委会委員)は、次のような発言もなさっておられました。
福島原発事故の4日後(3月15日)には、メルクル首相は福島と同様に1番古い形の原発7基を停め、1週間くらい後には、将来のエネルギー政策をどうするかを決定する倫理委員会を設立して、5月30日に、2020年までにドイツの原発全基(17基)を停止すると決定。 (尚、この「倫理委員会」の構成メンバーとして、原子力の専門家の集まりではなく、社会の各方面を代表する方々を、原発推進派、反対派がほぼ同数集め、又、色々な方面の専門家も招いて、その討論の模様を10時間にわたってテレビ放映(150万人が視聴)した) ドイツの電力供給量は、再生可能エネルギーの発電量は現在17%ですが、2050年までに80%を、その途中2030年までには35%を目標としているが、風力発電のコストは下がっているので、多分目標以上が達成可能と思われる。 風力発電コストは下がっているので、田舎の土地、海岸、海の中にも設置されています。 田舎の人は、農業をやりながらの発電事業で潤っている。 ドイツの北の方では、風の良い日は100%風力で電力がまかなえている。 太陽電池発電コストは、今は風力より高いが、この3年で40%もダウンしているので、10年間で風力に並べるでしょう。 |
一方、日本の貿易黒字はこの25年間、毎年平均10兆円あり、海外投資の正味蓄積額が2009年で276兆円と世界最大になっている。このまま海外投資だけを続けると、とめどなき円高になり、国内から製造業が海外に逃避し、失業が増え、税収も落ち込む。海外投資の一部を国内投資に振り向けるよう国内に『もうかるメカニズム』をつくるべきではないだろうか。 |
この『もうかるシステム』が先の北澤氏のお話にあった(又、菅氏の夢であった)「固定価格買取制度」であり、この制度を国が制定し投資家の意欲を刺激すべきなのでしょう。
「再生エネルギー発電」の設置場所に関しては、北澤氏は次のように話されておられました。
太陽電池発電などは自宅の屋根に設置し、自宅の屋根に設置する金銭的余裕の無い方は、投資家に自宅の屋根を貸し、賃貸料を年金の補充とすることも考えられます。 又、今回被害を受けた東北地方は「再生エネルギー」の供給地とすることも考えるべきでしょう。 山田氏談“原発を止めれば、政府が原発に関する毎年の支出(2000〜3000億円)が、「再生エネルギー」の開発費にも向けることが可能ですね。” 北澤氏“それは政府の資金として、「再生エネルギー」独自での発展は可能です。” 日本の電力費は、年約15兆円で、このうち原子力発電は約4兆5,000億円、GDP(国内総生産)の0.9%だ。娯楽費は年約100兆円でGDPの20%を占める。「クリーンな電力は国民の楽しみ」と捉えたら、とたんに安い出費と言えるのではないか。 |
ところが、最近バカみたいに「菅批判」、「反原発(北澤氏の御言葉では「卒原発」)批判」を紙面で展開する「週刊ポスト」は、2011.6.17号(バカ総理のバカ計画「1000万戸に太陽光パネル」は絶対にあり得ない)との次の記事を載せています。
思い付きで、国際公約≠キるなど、もはや常軌を逸している。 菅直人・首相は5月のG8サミットで突然「1000万戸に太陽光発電を設置する」と大風呂敷を広げて悦に入った。…… 大きな問題は4つある。 第1は、そもそも政策としては不適切だ。本紙はこれまで太陽光発電による原発代替がいかに難しいかを科学的に分析してきた。…… 第2に、政治手法としての重大な問題だ。 突然、総理大臣が国際会議で「30兆円の公共事業計画」を約束してくることは暴走と言うしかない。…… 第3には、憲法・法律に抵触する。…… 菅プランは、一般家庭に強制的に太陽光パネルを設置しようという前代未聞のものである。…… 第4に、技術的に計画遂行は無理である。…… 今でも耐震基準に問題ないとされた住宅がパネルの重みで歪む、あるいは地震で損害する被害が出ている。…… |
こんな記事を書く「週刊ポスト」は、天に唾はく行為をしているようでなりません。
バカは「週刊ポスト」御自身ではありませんか!?
塗布変換型有機太陽電池開発なども含めて北澤氏の教えを請うたらいかがでしょうか?
(補足)
“既に、環境省の中でのアイデアで公表しているのがあって菅さんが唐突に言ったのではないんです”と早野透氏(桜美林大学教授)が、6月11日放送のパックインジャーナルで語っておられました。
余り長くなりましたので次の拙文≪世界的な発電量は、自然エネルギーが原子力を抜いた(2)≫に移らせて頂きます。