お陰様を忘れた日本人(3)
(お金様のマスコミ)
2009年2月9日
宇佐美 保
先の拙文《お陰様を忘れた日本人(2)(お金様の大企業)》の(補足)にて書きましたが、『週刊文春』が長年の広告主であった伊勢神宮の土産菓子会社である「赤福」が消費期限偽装等の問題を起した際(「赤福」非難の世論が沸騰している時期には広告は掲載されず)「赤福」弁護の“よいしょ記事”を何本か掲げ、日本中が「赤福問題」を忘れるや、「赤福」の広告を毎週掲載している状態を見ると、マスコミも“お陰様を忘れ”“お金様に成り下がった”のだと、私達は嘆き悲しまなくてはならないのです。
このようなマスコミに対しては、これまた先の拙文にも記しましたが、奥田碩氏(トヨタ自動車相談役)が、気に入らない報道をするテレビのスポンサーにならないなどとの恫喝的発言が罷り通るのも無理もないことと思われるのです。
そして、この奥田発言を(似非?)ジャーナリストの田原総一朗氏は弁護したのです。
私が、田原総一朗氏を「似非ジャーナリスト」と思わざるを得ない点は、今までの拙文でも何度も書いてきましたが、この奥田発言に対しても、朝日ニュースターの番組の慶応大学の金子勝教授との対談に於いては、“奥田発言を支持しない”と語った事です。
そして、今朝のサンデープロジェクトでは、与野党の4氏を招いて討論(勿論、いつもの通り与野党の言い分は対立したまま)させておきながら、最後には、田原氏は、女性アナウンサーに“どう思う?”と振って、次のコメントを発せさせて、討論を打ち切らせてしまいます。
女性アナウンサー: 批判の仕合を止めて国民を向いて欲しいと本当に思ってしまいますね。批判も揚げ足取りにしか見えないです。 |
これでは、田原氏は与野党中立を装いながら、野党の言い分を取り上げることなく、国会運営のゴタゴタを、「与野党の足の引っ張り合い」で幕引きを図ったと思えてなりません。
このようなアナウンサーの感想だけで、結論めいた体裁をとりながら、討論の決着とするのは似非ジャーナリスト的に思えてなりません。
更に、次のジャーナリスト内田誠氏の「派遣法誕生:常用型、登録型」のレポートを楽しみにして、テレビのスイッチを入れていたのです。
内田氏は次のように力説しました。
登録型を作った際には、保護的な内容としては専門分野に限るだけだった それ以外には、保護を担保するものは無い 登録型を入れても、色々な条件を付け加えてやっている国は外国には幾らでもあります。 |
しかし、田原氏は、又、不可思議な結論で内田レポートを無益化してしまいます。
当時は、こんな不況が来るなんて全く想像していなかった、僕は89年にね、これはバブルではないかといって取材したら全然違うとあらゆるシンクタンクが否定したよね。だからこんな不況が来てね、これがこの労働者切りに使われるなんて、思ってもいないよね。 |
本来は、
法案法律制定に際しては、あらゆる事態を想定するべきです。 |
ところが、
種々の問題点での野党の質問に対して首相はじめとする政府答弁は “仮定の問題にはお答え出来ません”を繰り返しています。 |
ですから、こんな田原氏見解は、氏の日頃からの政府べったりの姿勢の現われと思えてなりません。
“労働者派遣法成立時には、今の惨状を予見できなかった”では済まされないのです。
予見は、兎も角、予想、仮定をして法案を書くべきです。
少なくとも、バブル崩壊(92年)後に、登録型の派遣労働者の大量解雇が発生した時点で、内田氏が番組で力説した「保護」が盛り込まれた修正案が制定されるべきだったのに、1999年12月1日の労働者派遣法改正では、派遣業種の拡大となってしまった責任を田原氏の口からは出てきませんでした。
これでは、田原氏は政府の方々と同じ穴の狢です。
このような田原氏の後継者としては、最近はCMに出たりしている宮崎哲弥氏の顔が浮かんできます。
宮崎氏は、『週刊文春(2009.1.22号):仏頂面日記』に、次のような政府に対する提灯持ち的な記述を晒しています。
●1月某日 五日に始まった通常国会は定額給付金で大荒れ模様。やがて「政局」に発展する様相である。 だが、この議論、私にはさっばり理解できない。テレビのキャスターやコメンテーターなどが「こんなバラマキは政策じゃない」などとしたり顔でいい放っているのをみると、無茶苦茶腹が立ってくる。 定額給付金同様の政策は景況悪化による需要不足を補う目的で様々な国が採用している。例えば、オーストラリアのラツド政権は一人当たり六万円から八万円の支援金の支給を打ち出したし、オバマ氏も九五%の勤労者世帯に対する減税、低所得者を中心に一人当たり五百ドルの支給を公約している。ラッドやオバマも「政策をやっていない」と批判されるべきなのか。定額給付金の最大の問題点は、景気刺戟には少額過ぎることではないか。 この国のメディア言説は財務省や日本銀行に洗脳されているとしか思えない。 関連してもう一つ腹立たしい話がある……。(続く) |
宮崎氏は、“ラッドやオバマも「政策をやっていない」と批判されるべきなのか”、“定額給付金の最大の問題点は、景気刺戟には少額過ぎることではないか”と憤慨されていますが、拙文《「軍事ケインズ主義」と「道路ケインズ主義」(3)(「ガソリン税」は「環境税」)》の一部を掲載させていただきます。
公共投資と同様なバラマキ政策である所得減税(ヘリコプターからお金を撒くような政策)の効果を、米国で今回実施された例から考えて見ましょう。
日経(NBonline)の記事は次のようです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20080213/147195/
減税法案は、2月13日にブッシュ大統領が署名、成立した。・・・その中身は、所得税の戻し減税(1067億ドル(約11兆円))と設備投資減税(450億ドル)の2本立てである。 所得税の減税は、2007年の年収が7万5000ドル以下(夫婦世帯では15万ドル以下)の低・中所得者(全世帯数の7割)が対象となる。2008年5〜8月に小切手で還付額が郵送される。1人当たりの金額は600ドル(約6万5千円)、夫婦では1200ドル(約13万)、子供1人につき300ドル(約3万円)が追加される。・・・ 特に、所得税の戻し減税では、送られてきた小切手を使って消費を行うという即効性の高い景気押し上げ効果が見込まれているが、低所得者層ほど、いわゆる「ぎりぎりの暮らし」をしているため、所得を消費に回す比率(消費性向)が高くなる。小切手を貯金せず、消費に回すことになり、景気の押し上げ効果は強くなる。 |
(ドルと円の換算は、1ドル約105円で、私が大まかに換算しました)
では、米国で実施されたお金バラマキ政策は効果を発揮したのでしょうか?!
9月11日(9:00〜9:02)のNHK衛星第1放送のニュースは、「米国で実施された所得減税の効果を民間アンケート会社が、2710人を対象に調査した結果、次のように殆どは借金の返済、貯蓄に回ってしまった。」と次のような内容で報じていました。
米国所得減税の効果 |
|
住宅ローン以外の借金の支払い並び公共料金の支払い |
36% |
貯蓄 |
29% |
外食 |
12% |
旅行 |
10% |
その他 |
18% |
消費傾向の強い米国ですら、貯蓄に29%に回ってしまったのですから、日本ではもっと貯蓄に回るでしょう。
なにしろ、誰もが先行き不安なのに、又、いつ老後は「自己責任」などの掛け声をかける人物が出てくるか分からないのですから!
このように、日本よりも高額なバラマキも効果なかった事実が存在しているのです。
しかし、少なくともオバマ大統領は、日本のように高額所得者にもばら撒くとは表明していません。
宮崎氏は“九五%の勤労者世帯得者”“低所得者”に限定している事を書かれているのですから!
この“九五%の勤労者世帯得者”には大きな意味があるのです!
特に米国の現状では、所得が少数の人々に偏っているのですから!
この件を、拙文《アメリカを見ずに、世界や日本を語るマスコミ(1)》の一部を掲げさせて頂きます。
そして、このアメリカの富裕層に対する恩恵に関しては、『超・格差社会アメリカの真実 小林由美著:日経BP社発行』には次のように書かれています。
(但し、表を用いて説明されていますが、表が細かくコピーが困難なので、表などをカットして引用させて頂きます)
国民99%の犠牲で、トップ1%だけに恩恵を与える税制 しかしアメリカのトップクラスの所得水準を細かく見ると、また違う姿が見えてくる。・・・ ニューヨークタイムズが行ったこの調査によると、・・・ つまり、1億4500万人の納税者の全所得のうち、1万4500人が5%を、そして13万人が6%を取り、残り89%を1億4485万人が分け合っている。単純平均すれば、トップ0・01%と納税者99・99%の差は、562倍になる。アメリカの1人当たり平均所得は2・5万ドル(288万円)、世帯あたりの平均所得は4・5万ドル(540万円)だから、1人当たり平均所得を単純に562倍すれば、トップ0・01%の平均所得は1350万ドル(16億円)になる。 ・・・ |
更には、拙文《アメリカは民主主義の国ですか?》からも掲げさせて頂きます。
更に、ラムゼー・クラーク氏は著作《湾岸戦争(地湧社発行)》で次のように記述しています。
1992年には、米国の世帯数の1%の最富豪族が、米国の全資産の37%、営業資産の62%、公開株の49%、非居住用不動産の45%を所有するに至った。 |
このような米国に於ける所得の異常な偏りを考慮して |
このオバマ大統領の姿勢(高額所得者に対する援助を拒否)と類似しているのが、大阪府の橋下徹知事の意向ではありませんか!?
この件を、産経ニュース(2009.1.7 13:54)から、以下に引用させて頂きます。)
大阪府の橋下徹知事は7日、府独自の緊急経済対策として今年4月から、国からの定額給付金について、年収400万円未満の人を給付対象とするなどの所得制限を府全体でかけて、余った金額を学校の耐震化などに充てる意向を示した。さらに、府と府下43市町村で計4000人近い職員を一時雇用するワークシェアリングを実施する考えも表明した。ただ、給付金の所得制限には法律上の障害なども予想され、実現するかは微妙だ。 |
この橋本知事の意向には、私は大賛成です。
(なにしろ、「年収400万円」は私が今まで到達したことのないほどの高額年収なのですから!)
何故、宮崎氏は政府べったりの姿勢をとられるのでしょうか?
宮崎氏が「定額給付金の最大の問題点は、景気刺戟には少額過ぎることではないか」と思われるのなら、 橋本知事の意向を更に進めて、 “「年収400万円」以上の方々への給付分を全て「年収400万円未満の人」に振り向けろ!” と訴えるべきではありませんか? |
更に、私は、前文《お陰様を忘れた日本人(2)(お金様の大企業)》には、“高額所得者は進んで消費に励むべき”と書きましたが、宮崎氏も同様なことを記述して欲しいものです。
更に私は思うのです。
大企業で、派遣社員をリストラするなら、 その前に、役員報酬を吐き出した欲しい思いです。 前文に記述しましたように、大企業のここ数年の業績は、役員の方々の能力と功績に依存していたとは思えません。 それよりも、彼らの経営戦略の失敗が今回の不況を招いてしまったと解釈も出来ます。 従って、役員の方々がここ数年で手にした報酬を吐き出して、 リストラされる方々の援助に充てて頂きたく存じます。 少なくとも、今まで手にした報酬を公表して、その分を消費に充てて頂きたい思いで一杯です。 |
このような動きがあるのでしょうか?
それより逆に、日本経済団体連合会会長を務めるキャノンの会長の御手洗富士夫氏は率先して、傘下の会社の派遣労働者のくびを切り、それに奥田氏のトヨタが続きました。
この後を大企業各社が雪崩を打って続きます。
おぞましい限りです。
(内部留保金をそのままに、そして、各社の役員の報酬は不明のまま)
これでも、一時は、日本に於いて、「政治は3流だが、経済は1流」との言葉が幅を利かせていたのです。
不思議です!
ところが、NHKの衛星放送で、昨年の今頃放送された「ビル・ゲイツとウォーレン・バフェット後輩と語る」に於いて、女子学生の“どのような方法で、組織全体に倫理的な指導を行っていますか?・・・”との質問に対して、ウォーレン・バフェット氏(バークシャー・ハサウェイ社CEO)は、次のように答えておられます。
わが社は潤沢な資金を持っているので、多少の損失を出す余裕はあります。 しかし評判を落とす余裕はありません。 わが社の経営陣には、自分がこれからすることを公的な基準からだけでなく、あらゆる基準に照らして判断するように言っています。 その一つが私が新聞テストと呼んでいるものなんですがね、それは自分のした事が翌日地元の新聞に書かれた時、家族や友達や近所の人がそれを読んで嫌な気持ちにならないかという基準です。 このテストをクリアー出来ないものは、全て駄目だといつも私は言っているんです。 ・・・ |
今回の大企業の幹部の方々の行動は、このバフェット氏の実行している「新聞テスト」に合格するとはとても思えません。
更に、ウォーレン・バフェット氏もビル・ゲイツ氏もこの番組中で、
「高額所得者の高額税負担」、「慈善事業」などでの 「ノーブレス・オブリージ(高い地位に伴う道徳的・精神的義務)」 の大切さを説かれておられます。 |
例えば、マイクロソフト社会長のビル・ゲイツ氏は、次のように語っておられます。
重要なのはこういうことです。 ウォーレンは自分の会社の大株主、私もまだ自社株をたくさん持っています。 恵まれない人達に富を使うのは消費ではありません。 いいですか、一寸考えてみて下さい。 例えば、5000万ドル稼いだ人がいたとして、それをただ家を建てたり、自分たちの為に使ったとしたら、それはただの消費です。 富を貧しい人に分配せず、自分たちの目的の為だけに使っているからです。 もしあなたが幸運にも、社会の富の一部を手にすることが出来たら、ぜひ世の中の恵まれない人の為にどんどんそれを使ってください。 一番上から富を循環させる。 それは、義務なんです。 地位が上がれば上がるほど、責任は大きくなります。 もっといえばそのような慈善事業に富だけではなく、頭脳も活用して欲しいのです。 |
この番組の録画は私の宝物です。
(録画したハードデスクが壊れない事を祈っています)
そして、大企業の幹部の方々も、この番組を思い起して頂きたいものです。
そして、私よりもずっと情報量の豊富な、田原総一朗氏、宮崎哲也氏をはじめとするマスコミの方々が、このような話を多くの方々に紹介して下さらないのが不思議でなりません。
(補足)宮崎哲弥氏の不思議
宮崎氏は、、『週刊文春』のコラム「仏頂面日記」を連載し、その中で、次のような記述をしばしばなさっておられます。
一月十九日(月) 『太田総理』(日本テレビ系)の録り。今年最初の出演だ。実は一週間前の十二日が年始めの収録だったのだが、当日謎の高熱で昏倒して、タレント活動歴初の「病欠」となってしまった。 すっかり出端を折られた感じ。 気晴らしに控え室で優木まおみさんと雑談していたら、彼女が佐賀県の出身であることを知った。 私は久留米出身だが、家のルーツは佐賀。こういうキュートで頭のいい子が同郷だとちょっと嬉しい。 |
こんな脂下がった文を毎週のように晒しながらも、朝日ニュースターの宮崎氏がキャスターを担当する番組では、サブキャスターを務める堤未果氏(『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』の著作、又、テレビ番組「デモクラシー・ナウ」のキャスターンでも活躍)が、出演者に質問しようとすると、彼女の質問を毎回のように遮ってしまいます。
何故なのでしょうか?
それに、CMに出たり、「タレント活動」等に精を出していてジャーナリストの本分を発揮できるのでしょうか?
不思議です。
目次へ戻る