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フセイン元大統領と共に闇に葬り去られた真実

200713

宇佐美 保

先の拙文《庭を訪れる小鳥達》に於ける、以下の記述を続けたいと存じます。

 

早期な処刑によって、フセイン元大統領が犯したと言われている

クルド人約18万人の虐殺
化学兵器が使用され約5000人が死亡」、
そして「クウェート侵攻

などの歴史の重要な解明が困難になった・・・

 

 

 2003年12月14日、フセイン大統領が米軍に拘束されら際、拙文《フセインはオズワルドの二の舞?》にて次の懸念を抱きました。

 

 イラクの元大統領フセイン氏は、アメリカ軍などによって身柄を拘束されました。

アメリカの放送では、“戦う事もせず、自らの命を絶つ事もせずに、捕まった、フセインは、結局は臆病者だったのだ!”とのコメントを流していました。

 

 このコメントを発していたアメリカ人は白人でしたから、キリスト教徒では?

キリスト教では、自殺を勇気ある行為とみなしているのでしょうか?

 

 フセイン氏は、これから進んで、法廷の被告席に立ち、「フセイン(イラク)がクウェートへ侵攻した理由」、「毒ガスによるクルド人殺害の真相」などを、はっきりと証言すべきと存じます。

 

と申しますのは、拙文《暴君はフセインですか?アメリカではありませんか!》にこれらの件等々、多くの部分を引用させて頂いたラムゼー・クラーク氏(アメリカ元司法長官)の著作「湾岸戦争(地湧社発行)」に目を通すと、これらの裏には、アメリカの影がちらついているのですから。

 

 ですから、ラムゼー氏などの主張が正しいとしたら、ブッシュ政権の人々は、フセイン氏が法廷で証言されたらどうするのでしょうか?

・・・

今後、フセイン氏はどうなるのでしょうか?

本来ならば、国際刑事裁判所(ICC)にて、裁かれるべきでしょうが、イラクはICCを批准(アメリカもそして、日本も)していません。

 

となりますと、国連主導で、ユーゴ元大統領ミロシェビッチを裁いている旧ユーゴ国際戦犯法廷のような国際戦犯法廷でしょうか?

しかし、国連に於いては又、大国(アメリカのみならず、フランス、ドイツ、ロシア等、多くの大国はフセインと何らかの裏取引があるのでしょうから)の横車が気になります。

旧ユーゴ国際戦犯法廷においては、ミロシェビッチは裁かれていますが、一部のNGOから非難されているNATO諸国のユーゴ空爆は、結局裁判の対象にならなかったというのですから。

・・・

そして、これらの収容所の中で、フセイン氏は自殺したとか、他の囚人に殺害されたとかの記事が出てくるのではないかと気掛かりです。

 

 しかし、アメリカが民主主義の国であり、そのアメリカがイラクを民主化しようとしている事が事実なら(私がここに書きました事は、小人の妄想であって)、フセイン氏は公正な裁判が受けられるべきと存じます

 

 

 しかし、フセイン氏は暗殺される事はありませんでした。

私は少し安心しました。

(私の心配は「下種の勘ぐり」だったのかしらと感じました。)

でも、フセイン氏は「国際刑事裁判所(ICC)」或いは「国際戦犯法廷」ではなく、「イラクの特別法廷(高等法廷)」で裁かれ、2006年12月26日に 同法廷にて1審死刑判決が控訴審で支持され、死刑確定されるや、その4日後の12月30日に絞首刑による死刑が執行されてしまいました。

 

 この結果、案の定「フセイン(イラク)がクウェートへ侵攻した理由」、「毒ガスによるクルド人殺害の真相」などの米国関与の疑いは闇の中に葬られてしまいました。

 

 毎日新聞(2006年12月31日)でも、次のように記述しています。

 

・・・

 ◇米、「過去の蜜月」暴露恐れ

 元大統領の死刑執行で、旧フセイン政権の「犯罪」とされる事件の多くは真相の解明が困難になっ。イラク政府などが死刑執行による元大統領の事実上の「口封じ」を急いだ背景には、「イラン・イラク戦争(80〜88年)などへのかかわりを蒸し返されたくない米国の思惑があるのではないか」との憶測も専門家の間で流れている。

 旧政権の裁判ではイラク北部でクルド人約18万人が虐殺されたとされる「アンファル作戦」(88年)の審理が継続中。イラン・イラク戦争末期にクルド人に化学兵器が使用され約5000人が死亡したとされる「ハラブジャ事件」(88年)イラク軍のクウェート侵攻(90年)−−などの真相解明も待たれていた

 だが、今回の死刑判決の罪状はイラク中部でシーア派住民が殺害された「ドジャイル事件」(82年)だけ。民間シンクタンク「湾岸研究所」(アラブ首長国連邦)のムスタファ・アーニ・イラク問題担当部長は他事件の法廷審理を待たず死刑が執行された点を「米国が直接関与した旧フセイン政権の犯罪が明るみに出ないよう米国が関与していないドジャイル事件が選ばれた」と説明する

 イラン・イラク戦争で米国はイランを封じ込めるため、イラク寄りの立場を取った。ロシアの中東専門家、ドミトリー・マカロフ氏は「米国にとってイラクはイランを処罰するムチだった」と解説する。米国は偵察衛星情報をイラクに伝えたとされ、「イラクは米国から総額15億ドル(約1800億円)に上る兵器を購入した」(マカロフ氏)との未確認情報もある。戦争中にイラクは化学兵器を使用したが、米国は「見て見ぬふりをした」(米通信社記者)との批判もある。

 クウェート侵攻では駐イラク米大使がフセイン元大統領との会談で「米国は領土問題には関心がない」と述べ、イラク側に「米国が暗に青信号を出した」と解釈されたとの指摘もある。

・・・

 ◇裁判、公正さに疑義

 死刑は米軍占領下で設置されたイラク高等法廷(旧特別法廷)での裁判の公正さに疑義が渦巻く中で執行された。民主的な裁判手続きの形式を取りながら、旧政権下で弾圧された反体制派が元大統領を断罪、極刑に処する「復しゅう劇」の色彩が濃かった。

 独裁者の犯罪はミロシェビッチ元ユーゴスラビア連邦大統領(今年3月死去)を審理した旧ユーゴ国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)のように国際法廷で扱われる場合が多いが、フセイン元大統領はイラク人によって国内法廷で裁かれた。・・・

 国際社会でも「裁判の独立性」への疑念がくすぶる。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは(1)公正さと中立性の欠如(2)イラク政府の干渉(3)関係者の安全確保の不十分さ(4)被告、弁護団の権利侵害−−などを指摘し、「裁判には深刻な欠陥がある」と批判。国連人権高等弁務官も「公正さを懸念する」との理由からイラク当局に慎重な対応を求めていた。

・・・

 

 この記事中の“死刑執行による元大統領の事実上の「口封じ」” に於ける“米国の思惑”に関しては、次の東京新聞(2006.12.31)の次の「米高官側と協議の結果だったとされる」との記事を見る事が出来ます。

 

・・・

 「完全にイラクの手で執行された。米国は介入しなかった」。イラクのルバイエ国家安全保障顧問は三十日、地元テレビにそう話し、米国の“圧力”を否定した。

 だが、一部閣僚の反対を抑えてマリキ首相が早期執行を決断したのは、米高官側と協議の結果だったとされる。ルバイエ顧問の否定とは裏腹に、今回も米国の影が鮮明に浮かび上がる。

 司法手続きに深く関与した米国は、一審判決の前から「刑の確定後は追起訴案件の審理を待たず、すぐに死刑が執行される」との見通しを示してきた。しかも一審判決は、米中間選挙の直前というタイミングで出た。

 米国は、歴代政権とフセイン元大統領との蜜月関係を示す新証言が出る恐れを封印したかったとされる。弁護団は「法廷は『犯罪』の真相を解明する場ではなく、米国支配の円滑化を目指す道具だった」と批判する。

・・・

 恣意(しい)的な法解釈が横行し、公正な訴訟を目指した裁判長が辞任に追い込まれたフセイン裁判。政治の思惑と米国の意向に左右された結果、死刑執行という予想通りの形で終幕した。

 その代償は、またも治安悪化を加速させるだけ−。イラクから、悲観論以外は聞こえない。

 

 そして、この

「マリキ首相が早期執行を決断したのは、米高官側と協議の結果だったとされる」の記述は、
NHKの衛星第1放送で流されたBBCのニュースでは
駐イラク米大使の関与” を伝えていました。

 

 これでも、この裁判が、米国がイラクに齎した民主主義の成果とでもブッシュ氏は主張されているのでしょうか?

 

どうもそのようです、(当然のように)ブッシュ米大統領は次のような声明を出していました。

(朝日新聞:2006年12月30日

 

 ブッシュ米大統領は29日、イラクのフセイン元大統領の死刑執行後、「処刑は、彼が自分の残忍な政権の犠牲者に認めてこなかった公正な裁判の後に実施された。イラク国民が法による支配に基づく社会をつくろうという意思がなければ不可能だった」と意義を強調する声明を発表した。

・・・

 

 更に悲しい事に、我が国の首相は、先の拙文《庭を訪れる小鳥達》でも掲載しましたが、次のように、米国の関与は全く無関係との態度です。

 

 フセイン・イラク元大統領の死刑執行について安倍首相は30日、「我が国は、イラクが国内の困難な課題を乗り越え、安定した国となることを期待しており、国際社会と連携しつつ引き続き支援していく考えだ」との談話を発表した。

 

 安倍氏は、戦争で闘って命を落とされた方々には、靖国神社にて“英霊に哀悼の念を捧げる”ようですが、安倍氏の心の中には、理不尽な戦争によって命を落とされた多くのイラクの方々への哀悼の念などは皆無なようです。

 

 そして、小泉前首相は、ご自身の靖国参拝に対し、次のようにも発言していました。

 

 「戦争で尊い命をなくされた方々の上に今日がある。心から敬意と感謝の念を持って参拝している」

 

 何年かの後、安倍氏の期待通りに、「イラクが国内の困難な課題を乗り越え、安定した国」となった時、戦争で命を落とされたイラクの方々(更に、無益な戦争に引き摺り出されて命を落とされた米兵達)の無念な思いは、“心から敬意と感謝の念を持って参拝している”の類で癒されるのでしょうか?!

 

 “戦争で尊い命をなくされた方々の上に今日がある”と“心から敬意と感謝の念”を抱き表する為には、「参拝する事」ではない筈です。

(なにしろ、亡くなった方々が、(日本の場合は、)全て神道を信じているわけでもないのですから!)

それよりも、

何故その方々が命を落とさなくてはならなかった戦争が起きてしまったのかをはっきりと検証して、
無益な戦争の責任者の処罰をきちんと行い、
次なる戦争の発生を防ぐ事に努力する事ではないでしょうか?

 

 更には、

悲しく貴重な人類の宝である歴史を可能な限り正しく検証して、
次の世代へと継承して行く事こそは、
私達の責務ではありませんか!?

 

 最近では、「東京裁判」の不当性を口にする方々が多いようですが、そのような方々は、何故今回の裁判とそれに続く処刑の不当性に異議を申し立てないのかが不思議であります。

 

ケーブル・テレビのチャンネルをカチャ・カチャ動かしていたら、「朝まで生テレビ!」の再放送で、姜尚中氏(東京大学教授)が、今回の米国のイラク侵略に日本は反対するどころか片棒を担いだ事を非難しましたら、村田晃嗣氏(同志社大学教授)が、

“日本が反対して米国を止められましたか!?日本に何が出来るのですか!?”

と怒鳴っていました。

私は、呆れて、直ぐに、別のチャンネルに回しました。

 

今までなら、そんな時は録画して後で、聞き苦しい箇所はなるたけ上の空で聞いたりしていたものです。

でも、今回は録画もしませんでした。

ですから、両氏の言葉を、はっきりと、録画画面から確認する事をしていませんので、微妙な点は私の記述と異なっていたかもしれません。

 

 それにしても、何故か、

テレビ画面の中で喚き散らし尻を捲くる村田氏のような方が増えてきたのは悲しい事です。

このような社会の動きは、「問答無用の社会」に行き着くのではないでしょうか!?

 

 たとえ、日本が反対しても、米国のイラン侵略を止める事は出来なかったでしょう。

しかし、その日本の反対は、被害を蒙った方々の、又、今後「イラクが国内の困難な課題を乗り越え、安定した国」へと復興に向かうイラクの方々の心の支えの一部になる筈です。

 

 更には、お気の毒の命を落とされた方々の霊をお慰めする事にもなりましょう。

(若し、村田氏が、“霊などが慰められるものか!”とおっしゃるとしたら、 “靖国に参拝したところで戦死者の霊が慰められるものか!”と発言してください!)

 

 村田氏は、米国に戦争反対を訴えても無力と発言していますが、村田氏は「国際刑事裁判所」の存在を無視されているのでしょうか!?

 

「国際刑事裁判所」に関してのホームページを訪ねて下さい。

http://homepage3.nifty.com/wfmj/icc/ICC01.htm

そこには次の記述があります。

 

国際刑事裁判所とは、ジェノサイド(特定の民族や集団に危害を加える集団殺害)や、紛争の起きている地域で拷問や虐殺を行った人など、戦争犯罪を犯した個人の責任を裁く裁判所で、歴史上初めてできる常設の国際法廷です。
国際司法裁判所(既設)と共にオランダのハーグに、2003年に設置されることになっています。

 

 この記述のように「国際刑事裁判所」は「戦争犯罪を犯した個人の責任を裁く裁判所」ですから、今回の何ら戦争の大儀も無く、イランに侵略した張本人であるブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズフェルド前国防長官などの個人的責任を追及できるのでしょう。

そして、それに追随した英国のブレア首相も、小泉前首相もその責任を問われる事になります。

 

 このように、「戦争犯罪を犯した個人の責任を裁く」事が可能となれば、(だからこそ、条約締結国であるフランスも、ドイツも、今回米国に追随しなかったのかもしれません)戦争の危機はどんどん減少して行くでしょう。

なにしろ、戦争を起こす張本人は「国家」ではなく、その「国家の動向を左右する個人」あくまでも「個人」名のですから。

その個人が「国家としてではなく」、「個人」として、責任を追及されるのですから!

そして、そもそも戦争に正当な理由は無いのですから!

 

 しかし、残念なことに、このページには、次の記述もあります。

 

最大の問題は、日本をはじめ米国や中国、ロシアなど主要国が、まだ締約国に加わっていないことです。米国は海外で活躍する米兵が政治的に訴えられる恐れがあることを理由に、強硬に反対しています。日本はこの条約の前提となる関連国内法が未整備であるとして、批准の見通しも立っていません。
それぞれの国の事情があることとは思いますが、地球上から戦争や紛争を無くすという人類の大目標に向って、すべての国が締約国になって欲しいものです。

 

 でも、次の記述もあります。

 

国際刑事裁判所は国際連合の設立時から構想されていました。それは第2次世界大戦後のニュールンべルグ国際軍事裁判と極東国際軍事裁判の経験を踏まえて、国際社会が常設の国際法廷を設置して将来の大量虐殺や侵略の発生を抑止する目的でした。

 

 「東京裁判(極東国際軍事裁判)」に異議を唱える方々は尚の事、この「国際刑事裁判所」の条約を批准するように日本国、米国等に働きかけて行くべきです。

日本を「美しい国」と主張したいのなら、「フェアーな国」でなくてはなりません。

ですから、早急に「国際刑事裁判所」の条約を批准して欲しいものです。

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