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郵政民営化とローソン

2004年9月10日

宇佐美

 

 コンビニエンスストア業界大手のローソン(全国で約8000店)が、長年実施してきた「黒猫ヤマト」のヤマト運輸との宅配業務の独占契約を破棄して、郵便局による「ゆうパック」を取り扱うとの報を聞き、私は、ローソンの利用を拒否しようと決心しました

勿論、私の数人の年寄り仲間も、同じ思いを抱きました。

(でも、驚くことには、配送料は、官が行う「ゆうパック」の方が、民が行う「黒猫ヤマト」便よりも安いと言うのですから、どうなっているのでしょう!)

 

 そして、このページをご覧頂く方々も同じ思いを抱いて居られるのでは?と存じますので、何故私達がその思いを抱くかの理由を書く必要はないのかもしれませんが、敢えて以下にその理由を書き連ねさせて頂きたく存じます。

 朝日新聞に記事(8月27日付け)を見ますと、次のよう書かれています。

 

 ヤマト運輸が26日の新聞各紙の全面広告で日本郵政公社との対決姿勢を宣言した。山崎篤社長は同日、朝日新聞の取材に対し、「税制などさまざまな優遇措置を受けている公社が、民間が切り開いた市場で競争を仕掛けるのはフェアでない」と政府と公社を批判した。

 対決宣言のきっかけは、宅配便の集配拠点であるコンビニエンスストアをめぐる攻防だ。今月18日、コンビニ業界2位のローソンがヤマトとの契約を切って郵政公社との提携に乗り換える方針を打ち出した。郵政事業の民営化を控えて足場を広げたい郵政公社の動きが、ヤマトと正面からぶつかった。ヤマトは自社の「宅急便」と郵政公社の「ゆうパック」の両方を扱いたいとするローソンの提案を拒絶した。

……

 ◆山崎篤ヤマト運輸社長の一問一答は次の通り。

 ――ローソンとの提携打ち切りはなぜ。

 「郵政公社の郵便事業は公益事業として税の優遇措置や道路交通法の進入禁止解除など様々な特典を受け、宅配便でも民間にまねできない価格提案をしている。コンビニで2社の商品を比べる消費者の多くはこうした背景を知らず、価格の安い方を選ぶ。『品質』で勝負しようとしても『価格』という入り口で客が流れてしまう。フェアでない競争には参加したくない」

 ――ローソンとの提携解消で失う年間取り扱い800万個は痛い。

 「ここで併売を受け入れれば、コンビニ業界がなだれを打つ可能性がある。不公正さを正さなければと考えた。民間が営々と築いてきたものに『官業の恩典』で攻め込まれればひとたまりもない」

 

 そしてこの山崎篤ヤマト運輸社長の

“ここで併売を受け入れれば、コンビニ業界がなだれを打つ可能性がある

の懸念通りに、次の記事(9月7日付けの朝日新聞)が出てきました。

 

 コンビニエンスストア大手のサークルKサンクスの土方清社長は6日、日本郵政公社の「ゆうパック」について「お客様の利便性が高まるなら、(ヤマト運輸の)宅急便と併売するのが望ましい」と述べ、将来、ゆうパックも扱う可能性があることを示した。……

 サークルKとサンクスはともに「宅急便」を取り扱っている。店舗数は6241(7月末現在)。

 

 

 現在の日本経済は、オリンピック中継、今夏の猛暑等の追い風を受け、大型テレビ、クーラーの売り上げ増大によって景気は回復してきたとの発言に対して、“否!否!地方の商店街は、「シャッター街」と変貌したままだ!”と多くの方々の発言がテレビから流れてきます。

 

しかし「シャッター街の出現」は、地方都市に限らず、巨大都市東京においても、認められます。

私の住む東京郊外の大きな街の住宅街にある商店街も、数年前から「シャッター街」に変貌したままです。

 

 そして、その「シャッター街」で、今も尚営業しているお店は、数軒のラーメン屋、ソバ屋、寿司屋などの食べ物屋さんと、理髪店等です。

 

 ですから、シャッター街の出現は景気に無関係で、顧客が近隣の住宅街の住民に限定されている商店街が、社会の変化に適応出来ない事が原因と、私は常々考えております。

 

 地元商店街が盛況であった一時代前に比べて、今の一般的に日本人の収入は、格段にアップしています。

しかし、その私達が、その時代、地元の商店街で買っていた品物は、日々の暮らしに必要な食材や文房具等の低額商品と、テレビなどの高額商品等でした。

 

 しかし、今では高額商品は、安売り量販店や、インターネットなどで購入してしまいます。

地元商店街に電気店があっても先ずパソコンなどは買いません。

(地元のパソコン店なら懇切に教えてくれる利点はあっても、最近の客の多くは、その店員の親切な教えを受けても、商品は、別の安売り店で買ってしまいます。

ですから、私の街に数年前に出来た親切なパソコン店は、直ぐに閉店に追い込まれました。)

 

 そして、日常一般の消費財を購入するのは地元の住人だけです。

ですから、売り上げ数は、以前と今とは大きな変化は期待出来ません。

その上商品単価は、当時と今とでは、殆ど変わっていないでしょう。

逆に、近隣の人件費の安い國から安価な商品が流入しているのですから、(安価なボールペンなど)、売り上げの大幅アップなどとても期待出来ません。

となりますと、客である地元のサラリーマン達と、商店街の店主達の収入は格段の差が付いてしまいます。

(なにしろ、商店主達の収入は、昔とほぼ変わらないのですから!)

これでは、商店主達はシャッターを下ろし、サラリーマンへの転職を考えざるを得ないでしょう!?

(でも、転職は容易でしょうか?可能でしょうか?)

 

 しかし、その商店街で、ラーメン屋やそば屋や寿司屋などは生き残れます。

何故なら、これらの商品は、隣国からそのまま安く輸入されてくるのではなく、又、客を量販店や、インターネットに取られることはありませんから、それなりの価格設定が容易です。

その上、住民達の収入が上がるにつれ(共稼ぎ世帯が増えるにつれ)、出前を取る率も増えてきましょう。

と申しましても、商店街がラーメン屋やそば屋や寿司屋ばっかりになっては、共倒れ現象が起こってしまいます。

(地元の客筋というパイの大きさは限られているのですから!)

 

ですから、

日本全体の景気回復には、人件費の安い国々などでは出来ない優秀な商品の開発開拓が必要であると共に、(商店街の方々も働けるような)国内での新たな企業形態の開発開拓も必要

な訳です。

 

 その面からも、ヤマト運輸による「宅急便(宅配)」と言う企業形態の開発開拓は、日本國民全員が感謝すべきであります。

そして、私達の小荷物を、ほぼ全国各地へ翌日迄に配達してくれるという郵便(鉄道)小包時代には考えられなかった便利な生活を私達に与えてくれているのですから。

従って、

オリンピックで金メダルを勝ち取った方々に国民栄誉賞を授与したがっている小泉首相は、その前に先ず、ヤマト運輸の小倉昌男氏に国民栄誉賞(感謝賞?)を授与すべきではありませんか?!

 

 ヤマト運輸の「宅配業務確立」は、一朝一夕で出来なかったのですから!

その「宅配業務確立」への道のりの厳しさは、NHKの「プロジェクトX」でも、放映されていました。

そして、その際のお役所の非協力的な(或いは、妨害的な)行為の存在を、週間文春での阿川佐和子氏との対談でも小倉氏によって紹介されました。

 

それらの例の一部を朝日新聞の次の記事(小倉昌男・ヤマト運輸会長へ編集長のインタビュー) 1989年11月25日夕刊経済特集)で垣間見ることが出来ます。 

 

 −−監督官庁の運輸省とは何かと衝突しているようですが。

 「この商売は免許がないとできません。それがもらえないために運輸省と衝突するんです。運輸行政というのはまことにおかしなもので、利用者ではなく、事業者のことだけを考えている。つまり、新たに免許を与えたために、既存業者の仕事がなくなったらかわいそうだ。事業者の健全な発展のためによくないというわけです

 −−免許を申請しても、却下されるわけですか。

 「却下はしません。5年も6年もほうっておいて、こちらがあきらめるのを待つわけです。それじゃ困るから、最後にはこちらが行政訴訟を起こす。そこまでいくと、びっくりして動きだすんです。国民のためには、運輸省というものはないほうがいいですね」

 −−でも、ヤマト運輸だって既存の事業を守ってもらい、助かることもあるのでは?

 「ないですね。既存業者が保護されている業界は、みんな駄目になりますいい例が旧国鉄の貨物です。駅に出入りして貨車に荷物を積むには、免許がいりました。免許のない業者は貨車で北海道まで荷物を運びたくてもできない。じゃあ、トラックでそのまま北海道まで運ぼうかと。結局、貨車で運ぶ荷物が減り、列車も減る。そうして国鉄が解体してしまったんです」……

……

 −−それはそれとして「ゆうパック」は頑張ってますよね。

 「しかし、郵便局で『ふるさと小包』といってサクランボなどを売るなんて、官業としてやりすぎだし、年賀はがきの利益を小包のダンピングに回している民業圧迫です。郵便局は民営化すべきです。同じ郵便なのに、民間との競争がある小包は値引きし、独占のはがきは下げない。まさに独占の弊害です

 

 この記事に見るように、今から、15年近くも前から、郵便局による民業圧迫の非を訴えていたのです。

 

 更にアエラ(1996年12月16日)の「郵政民営化へのクロネコ戦略 郵政、運輸省vsヤマトの20年戦争」という記事を以下に補足します。

 

 「郵便事業は民営化されるのが一番いいが、時間がかかりそうだ。ただ、『信書』配達の国家独占を定めた郵便法五条を、そこだけ削除してくれれば民間と対等の競争になる。そうなれば規制緩和はそこからダダダダッと進む。……

……

 ヤマト運輸がここ数年、郵政省と展開してきた熱い戦い。そのきっかけは九二年、子会社の九州ヤマト運輸(本社・鹿児島県)がクレジットカードの配達に乗り出したことだった。

 クレジットカードの発行枚数は年間二億枚を超え、その配達は成長間違いなしの「ドル箱」。郵便よりも安い値段設定がうけ、九州ヤマト運輸は九三年十月のカード更新期には十五万枚を配った。九四年一月の郵便料改正で、簡易書留が百円上がり、郵便によるカード配達料が三百十二円から四百三十円に上がったこともヤマト側に有利に働いた。

 郵政省の反撃は、九四年七月、九州郵政監察局による「口頭警告」で始まった。警告の内容は、

 〈クレジットカードは郵便法五条にいう「信書」に当たり、運送業者は送達できず国が独占して送達する。違反すれば運送業者も依頼者も共に「三年以下の懲役か百万円以下の罰金」に処せられる〉

 というものだった。

 ヤマト運輸は、郵政省と計五回にわたる文書戦争を繰り広げた。

 〈クレジットカードは貨物であり、信書ではない。郵政省の注意は、時代に逆行し官業擁護の立場から法の拡張解釈を敢えてしてまで民業を圧迫しようとの意図に出たものだ〉(ヤマト運輸)

 〈信書を全国あまねく低廉な料金で迅速、正確かつ安定的に送達するという郵便事業の国家独占の意義はいささかも変化していないと考える〉(郵政省)

 論戦はかみあわないままに、ヤマト運輸は九五年九月、三百五十円でクレジットカードを運ぶ「セキュリティーパック」の全国展開に踏み切った。両者の対立は、

 「法に基づき厳正に対処する」(郵政省郵務局長)

 「ぜひ告発してもらいたい。その方がはっきりする」(小倉氏)

 という場面まで極まったが、同年十一月の郵政省の郵便料改正で一転、決着した。

 書留と同様に受領印をもらうが、無賠償の「配達記録サービス」を売り出し、大口割引とあわせ二百四十円でクレジットカードの配達を引き受け始めたのだ。結果、セキュリティーパックは「開店休業」に追い込まれている

  

 ○「税金で赤字穴埋め」

 九州ヤマト運輸の担当者が、こう嘆いた。

 「負けました。郵政省は赤字を税金で埋めるんでしょうが、民間は赤字ではとてもやれません

……

 ○「時代の流れ認めよ」

 大正以来、関東地方の近距離輸送の「草分け」として知られたヤマト運輸は当初、北海道や東北、九州、山陰などで道路運送法に基づく「路線免許」を持たなかった。宅配便の性格上、全国ネットが欠かせないヤマト運輸は、運輸省に路線免許を次々と申請した。

 「だが、運輸省は三年も五年もほうっておく。その理由が分からない。不透明で、そして不公正だ。ある人には免許が出て、こっちには出ない」(小倉氏)

 ヤマト運輸はやむなく免許のいらない軽車両で営業したり、中小運送業者を買収したり、路線営業権を買い取る一方で、運輸省に正面から戦いを挑んだ。

 例えば八一年に申請した仙台―青森間の免許。何の音沙汰もないまま四年が過ぎた八五年、ヤマト運輸は行政不服審査法に基づく異議申し立てに踏み切った。八六年には運輸大臣を相手取り行政事件訴訟法に基づく「不作為の違法確認の訴え」を提起。業界では前代未聞の大騒動となったが、免許は提訴の三カ月後に下りた。

 「私は役人が嫌いだ。政治家にカネをばらまいた佐川急便事件で、運輸省は佐川の無認可営業、長時間労働を見て見ぬふりをした。グルといわれても仕方ない」

 「政治献金も一銭だってしたことない。だって株主総会で『献金が会社の業務にどういう関係があるんだ』と言われたら答弁に窮する。政治献金は背任そのものだ

 こう語ってやまない小倉氏が率いるヤマト運輸に対し、運輸省は様々な揺さぶりをかけた。……

 

 この様にして、(先にも書きましたが)郵政省や運輸省の妨害に屈せずに「宅配便」と言う便利な制度、企業形態を確立してくれたヤマト運輸へは、小泉首相が授与しないならば、我々日本国民全員が「国民感謝賞」を贈呈すべきではありませんか!?

 

 余談になりますが、不思議なことに、テレビ朝日の朝の番組(9月9日)で、千葉商科大学学長お加藤寛氏は、“宅配業務は官と民との競合で発展した”などと発言していました。

(朝の番組なので、未だ寝ぼけておられたのかもしれませんが?
このアエラの記事を読むと、“民(黒猫ヤマト)は官(郵政省)の税金を投じてまでの妨害行為にも拘わらず、「宅配業務」を発展させてきた”と加藤氏は発言すべきなのにと私は思うのですが?)

 

そして、小泉首相は、

「郵政民営化の基本理念」を“民間に出来ることは、民間に委ねる

と語っていたのですから、ヤマト運輸へ「国民感謝賞」授与しない迄も、小泉首相は、郵便局が、民間(ヤマト運輸)で立派に確立した「宅配業務」を妨害しないような配慮をすべきと存じます。

 

 この様な状態の中、(文頭に書きました)大手コンビニエンスストアチェーン・ローソンのヤマと運輸に対する裏切り行為の出現には、愕然としてしまいました。

 

 テレビ東京の番組WBS中で、ローソン社長の新浪剛史氏は、小谷真生子氏の“ヤマトの宅急便からゆうパックに切り替えた件もう少しヤマトの話し合いを続けた方が良かったのでは?”との質問に対して、次のように答えていました。

 

半年にわたりヤマトさんと話し合いを続けてきて、ヤマトさんとの契約が独占契約となっていたので、私共はお客さんに色んな商品をご提供する、ですから、ゆうパックが良いというお客様も居られれば、黒猫ヤマトがよいとおっしゃるお客様も居られまして、それぞれ良さがありまして、そういう選択の幅をお客様に提供するのが我々の役割と言うことを、御理解頂くべくヤマトさんと半年間交渉を重ねてきました。

ですから、(独占)契約条項を外して、是非、並列で他社を入れ込んでやらせて下さいと交渉を続けてきた。

未だヤマトさんとは交渉を継続中と私は認識している。

……

価格競争が民営圧迫か?と言う議論もありましょうが、あくまでもお客さんの視点からしますと、例えばポスト(ローソンに設置された)に入れた時、お客様が「ゆうパック出来ないんですか?」と私共に聞いてくる。

ですから、そういうお客様の声を聞いて、やって行くのが我々の役目だ

……税制優遇などの問題が有ろうが、更にはお客さにも選択の幅を提供する。

 

 この尤もらしい新浪氏の答弁に対して、(新浪氏に丸め込まれたかの如くに)小谷氏初め同席者は誰も異議を唱えませんでした。

でも私は、新浪氏に異議を唱えます!

新浪氏は、“お客様の声を聞いて、やって行くのが我々の役目だ”とおっしゃいますが、客が“商品の値段をタダにしろ!(無料は兎も角、半額にしろ!或いは、消費税をローソンもとにしろ!)”との声を発したらそれに応じますか?!

 

(今は亡き三波春夫氏は、素晴らしい歌声と共に、「お客様は神様」との言葉を残して下さいましたが、この言葉の真意は、「お客様は神様なのだから、お客さものご希望は何でも叶えなくてはならない」ではなく、「歌は、本来、神様に捧げる奉納芸であった、そして、私(三波)は、今、客席にお見えのお客様を神様と見立てさせて頂いて歌います」であろう事を拙文『お客様は神様です(三波春夫)』に書きましたので御参照頂けたら幸いです。)

 

 ヤマト運輸会長の小倉昌男氏の著作『やればわかる やればできる(講談社発行)』には、「“Yes but…”の社員は成長する」との項目で次のように書かれています。

 

 例えば、ある提案なり、新しいアイデアがあった場合、担当者にどう思うかと聞いてみると、当社の場合、「それは駄目ですね」と一言のもとに否定されることが多い。そして「よそでもやるようなら、真剣に考えてみましょう」 つまり“No but…”である。

「それは面白い考えですね」と、まず肯定しておいて、「検討した結果、この点を直せばプラスになるから、採用しましよう」と言う人、つまり“Yes but…”のケースはまだ少ないようである。……

 

 ですから、お客様の意見を先ず丁重に承ってから、ローソンの「宅配便」、又、「官による民業圧迫」に対する見解を、説明すればよいのです。

 

 ヤマト運輸会長の小倉昌男氏は、次のようにも書かれています。

 

 昔はよく座右の銘は何ですか、と聞かれた。今はそういうことは少なくなったが、それでもときには、人間としていちばん大事なことは何だと思いますか、と質問されることがある。

 私はいちばん大事なのは、正しい心を持つことだと思う。法律や倫理、そして社会のルールを守ることはもちろんだが、神や仏の教えに従い良心に恥じない行動をすることが、最も大事なことだと思っている。……

 

 ローソンの社長の新浪氏は、テレビ東京の番組WBS出演前の、何処かのテレビの画面では、“資本主義社会においては、会社は利潤の追求が第一”と語っていたと思ったのですが、記憶が定かではありません。

でも私の記憶がこの様であったとすると、「ヤマトとの独占契約を、自社の利益の為に一方的に破棄」するのは拙いと思い直して、「お客さまに選択の幅を提供する為」などとの口実を考え出したように、下種の私は勘ぐってしまいます。

 

 神様でもないお客様を、神様として崇めてしまうのは、本物の神様に対して申し訳ないことなのです。

 

 ですから、いわゆる「お客様は神様」的態度を取るローソンの新浪社長よりも、「神や仏の教えに従い良心に恥じない行動をすることが、最も大事なことだと思っている」ヤマト運輸の小倉会長を私は応援します。

 

 なにしろ、クロネコヤマトは変えません」との、ヤマト運輸の新聞全面広告(8月26日)の一部には、次の様に書かれています。

 

……

民間企業はすこしでも大きな利益をあげ、法人税を払い、そしてなるべく多くを株主や従業員に還元するよう頑張っています。とくに宅配便業界は、わたしたち民間企業が、企業努力を重ねて新商品・新サービスを開発し、全国津々浦々にお届けできるネットワークをつくり、現在の規模まで市場を拡大させてきました。いま、このわたしたちの市場に、日本郵政公社がローソンを足がかりに入ってこようとしています。さらに日本郵政公社は、税制面などでさまざまな優遇措置を受けているという事実があります。はたして、それが公平なのか。はたして、それが公正なのか。日本郵政公社が、民間が切り拓いた市場で競争をしかけるのはフェアプレーと言えるでしょうか

 

 ところが、朝日新聞(8月28日)には次のような郵政公社・生田総裁の談話が載っています。

 

 日本郵政公社の生田正治総裁は27日、日本記者クラブで講演し、「民業圧迫」批判に反論した。……

 郵便小包の取り扱いを決めたローソンの店頭から、ヤマト運輸が撤退を表明した問題では「シェア6%の公社が並列して置かせてほしいというのは民業圧迫にあたらない。税の優遇措置があるのは、過小資本を自分で利益を上げて積み増す枠組みだからだ」と主張した。

 

 この生田正治総裁の答弁も、新浪氏の発言同様、何となく多くの人達を説得してしまいます。

 

 でも、おかしいのです。

先にも書きましたように、小泉首相は、「郵政民営化の基本理念」を“民間に出来ることは、民間に委ねる”と語っていたのですから、生田正治総裁の「シェア6%の公社が並列して置かせてほしいというのは民業圧迫にあたらない。……」というのは全く詭弁で、本来民間が開拓して、順調に発展している「宅配業界」に官の郵政公社が乗り出すこと自体が間違いなのです。

 

 その上、「税の優遇措置があるのは、過小資本を自分で利益を上げて積み増す枠組みだからだ」との発言は全く飛んでもないことです。

官が行う必要のない「宅配業務」に、何故「税の優遇措置」と言う形を取って、その業務の「過小資本」を補填する為、税金を注入しなくてはならないのか!

 

 なにしろ、この世の中おかしな事が罷り通りすぎます。

でも、そのおかしな事をこの世の中では「常識」と言うそうです。

 

 その常識の一つに

「郵便料金は全国一律、同一料金でなくてはならない」

があります。

郵政民営化を反対しているインチキ評論家達は、「どんなに僻地にお住まいの方も、同じ恩恵を受けるべきだ!民営化など飛んでもない!民間では郵便料金を全国一定など出来る訳はない!」と喚いておられます。

確かに、民が実施している「宅配便料金」は、全国一定ではありません。

でも待って下さい!

郵政公社がその勢いを伸ばそうとしている問題の

「ゆうパック」は、全国あまねく一定料金で配達されるのでしょうか?

そんなことはありません!

 

 この件に関しては、半藤一利氏の著作『昭和史(平凡社発行)』の中に、次のような興味深い記述があります。

 

もはや軍縮会議から脱退するほかはないという機運になった昭和九年十月、軍艦の建造や修理など全般を統轄する海軍艦政本部に、たいへんな要求が軍令部から出されました。

 「四十六センチ主砲八門以上、速力三十ノット、パナマ運河を通れない超大戦艦を建造すべし」

 四十六センチ主砲というのは言葉ではイメージしにくいのですが、ふつうの戦艦の主砲は四十ないし四十二センチです。それでも弾は一万五千メートル飛びますが、四十六センチになりますと二万メートルは飛びます。ものすごい大きな弾で、それを積むのですから必然的に戦艦の長さも幅も大きくなる、するとパナマ運河は通れない。ということは、アメリカにすれば太平洋と大西洋の間を行ったり来たりできなくなります。大西洋にいたものを太平洋に持ってくるには南米大陸をず−つと回ってこなくてはなりませんから、とんでもない時間を食います。

たいそう不利なことになる。だから日本軍は絶対にアメリカに負けない、必ず優勢になる、と考えたのです。

 こうして、軍縮条約脱退と同時に超大戦艦の建造がはじまり、それが後の戦艦大和武蔵になリました

 これらの戦艦は極秘のうちに造るのですが、かりに完成直前にアメリカに知られたとしても、急に対抗したとて一年以上も日本は優位に立てると踏んでいました。海軍は、日米の戦艦がぶつかり合って相手を撃滅するという、日露戦争の日本海海戦を思い描いていたのです。敵の大砲が届かない距離からも届く戦艦の大砲で敵を潰してしまおうという、まことに華々しく夢みたいな話で、よく言うように「軍人は常に過去の戦争を戦う」のであって、過去の戦争だけを手本とし、兵器の進歩や世界情勢の変化を予測することはほとんどないのです

 

 私は、餓鬼のころ憧れていた戦艦大和武蔵が、「戦艦の長さも幅も大きくなる、するとパナマ運河は通れない。ということは、アメリカにすれば太平洋と大西洋の間を行ったり来たりできなくなります」との思惑で建造され、「海軍は、日米の戦艦がぶつかり合って相手を撃滅するという、日露戦争の日本海海戦を思い描いていた」と言う理屈は或る意味では説得性を持っています。

 

 なんだか「郵政民営化に反対」の根拠に「全国均一な郵便料金は民営したら不可能」と唱えているのに類似している感じです。

 

 多分殆どの方々は、「郵便料金は全国一律、同一料金でなくてはならない」が「金科玉条」と信じて疑っていないと思います。

だとしたら、

郵政公社が行っている「ゆうパック」が、何故全国一律料金ではないのですか?

 

不思議ですよね?

 

 ここでもう一度「何故、郵便料金が全国均一なのか?」を考えてみて下さい。

本当に、全国何処の人にも、離島の人にも、同じ恩恵を与える為に、國は、全国郵便料金一律にしたのでしょうか?

どうも私にはそうは思えないのです。

 

 ここで、半藤氏の“「軍人は常に過去の戦争を戦う」のであって、過去の戦争だけを手本とし、兵器の進歩や世界情勢の変化を予測することはほとんどない”の記述を再認識して欲しいのです。

 

 よ〜く、お考え下さい。

考えてみれば簡単なことです。

 

「全国郵便料金一律」でなく、地域ごとに郵便料金を別々に設定した場合を考えて下さい。

「全国郵便料金一律」を決めたころの一般情勢(技術情勢)を想像して下さい。

その頃の葉書代や、物価状況は別として、それらを現在の価格と見なしてでも考えて下さい。

先ず葉書の値段が全国一律なら、葉書の印刷は容易です。

ところが、50円の葉書の料金を地域ごとに変化させた場合は、何種類もの価格の葉書を印刷販売しなくてはなりません。

その様な面倒なことを考慮すると、現状のような切手も共に印刷された葉書は存在出来ないのかもしれません。

その上、ポストに一旦投函されてしまった葉書に貼られた切手の値段が正当化否かを、昔の技術で、どう判定するのでしょうか?

不当な切手が貼られている場合は、大変多くなるでしょうし、その後始末をどうするのでしょうか?

発信者に差し戻すのでしょうか?

或いは、受取人に差額を要求するのでしょうか?

(又、多めに切手が貼られていた場合は?)

 

 ですから、「全国郵便料金一律」の理念は、日本国政府の(明治のはじめに前島密が取り入れた欧米の制度にしても)

「全国民にあまねく均等な恩恵を授ける」との高邁な精神から発生したのではなく当時の技術に於ける最も効率的な手段の選択から発生したのではありませんか?!

でなければ、「ゆうパックの配送料も全国均一」にすべきです。

 

 しかし

現在の技術では、コンピュータや、自動認識装置の発展などのお陰で、地域ごとの別料金の管理は容易です。

そして、郵便業務が民間に移管された後も、政府が、全国均一料金の恩恵をどうしても全国民に施したいなら、私国民は、「全国郵便料金一律」の切手を郵便物に貼ってポストに投函した後に、民間業者が郵便物の地域ごとへの区分け作業をする際に自動的にコンピュータに記録される、各地域ごとの発送数をもとに、私達が貼った切手の価格と、

民間業者が設定した地域ごとの価格との差額を、政府が税金から補助すれば良いのです。

(なにしろ、今も、郵政業務は赤字とのことですから、税金が注入されている訳です。)

 

時代は変わっているのです。

技術は進歩しているのです。

いつまでも、「戦艦大和武蔵」の時代ではないのです。

 

 従いまして、「郵便料金全国均一を民間に押し付ける」との愚を行わずに、小泉首相の「郵政民営化の基本理念」通りに“民間に出来ることは、民間に委ねるとの信念のもと「郵政民営化」を実行したら如何ですか?!

 

 そして、現時点で、郵政公社にとって最も重要なことは、民間業務を圧迫することではなく、(ヤマと運輸が「宅配業務」を創出した如くに)新しい業務形態の創出に全力を傾注すべきなのです。

 

 郵政民営化に関して、

私が心配なのは、私達が現在、郵貯・簡保に委ねている財産(350兆円)の行方です。

 

現在の郵貯、簡保は「定額貯金」などで集めた金を国債を中心に運用しているだったら、いつの日か国債は紙屑となる虞(おそれ)があります。

紙屑にならずとも、その価値を減じてしまう日が来るかもしれません。

その上、特殊法人などに多額のお金を貸し付けていますが、その6〜7割は不良債権化しているとも云われています。

 

 郵貯、簡保を國が運用していれば、万一の際は國の保証も期待出来ます。

(と申しましても、國がこの様な國ですから、その時になってみないと確かなことは判りませんが)

郵貯、簡保が民営化された際には、これらの問題点を抱え込んでいるのですから、早晩に破産の憂き目を見る事が考えられます

 

 となりますと、國は、その「民間に移管した郵貯、簡保」が破産しようと、(預金者の自己責任として)保証の義務を、知らん顔をして逃れてしまえば、

 國は、多額の国民への負債を、「民間に移管した郵貯、簡保」を通じて国民自身に負担させてしまう事が出来るのです。

 

 悪夢です!?!?!?!

 しかし、この悪夢を國から押し付けられない為にも、そして、國へ、特殊法人改革の実行を迫る為にも、国債発行を控えさせる為にも、

私達の方からは、郵便貯金に“おさらば”すべきなのかもしれません?!



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