恩人菅さんに唾する東電メディア官僚そして民間事故調(8)
原発非常時冷却システムを撤去していた勝俣会長
宇佐美 保
週刊文春(原発崩壊3・11私はそこにいた 2012.3.8号)での藤吉正春氏(福島原発事故独立検証委員会ワーキンググループ)は、次のように記述されています。
東京電力以外の原発で所長を経験した人物に意見を求めた時だった。 「冷たいことを言うようだけどね」と、元所長は呆れ気味にこう言った。 「あの対応でよかったのか。私が現役だったら、全電源喪失に陥った後、ああいう対応はしていない」 つまり、水素爆発に至るまでに、もっと被害を食い止められたはずだというのだ。元所長は、「手順書に書かれてなくても、機械の本質を体に叩き込んでいるプロがいれば、次に何が起こるかわかったはず」と言葉を重ねた。 すでに政府事故調の中間報告でも、一号機の炉を冷却する「非常用復水器(IC)」が機能していないことに何度も気づくチャンスがありながら、正常だと誤認していたケースや、三号機で別の冷却手段を確保できなかったことが、事態を悪化させたと厳しく指摘されている。 |
このように現場の作業ミス、特に1号機「非常用復水器(IC)」の操作ミスが「事態を悪化させた」と記述されていますが、私には不思議でなりません。
(筆者注:ICとは、Isolation Condenser イソコンと略称)
では、2号機、3号機はどうだったのでしょうか!?
この件に関して、私達に、ほとんどの報道は何も伝えてくれていません。
でも、先の拙文≪恩人(菅直人氏)を叩き出した私達≫の(参考資料:1)に、
『週刊文春(2011.6.9号)』“福島原発非常時冷却システムを撤去した勝俣会長”の抜粋を引用させて頂きましたが、
そこには、申請者:東京電力株式会社 取締役社長 勝俣恒久 として、福島第一原発 二〜六号機の蒸気凝縮系を削除する申請を進め、小泉政権時代に認可されていた事実が暴かれています。
(この件の引用文を、文末の(参考資料)に再掲させて頂きます)
(しかし、残念なことに、『週刊文春』自体、この「勝俣氏の大罪」をその後追求していません)
ですから、
1号機に於いて操作ミスがなかったら、放射性物質拡散はなかったとの重要な安全装置「非常用復水器(IC)」は、 事故当時2号機3号機には存在していなかったのです。 |
2号機3号機に「非常用復水器(IC)」が存在していたら、2号機3号機では操作ミスが無く放射能被害をまき散らすことが無かった筈です。
この勝俣社長(現在会長)の決定的なミスを何故問わないのでしょうか!?
但し、You-Tubeを探しましたら、「【原口前総務相】福島第一原発の安全装置は小泉政権が撤去していた(6月2日に行われた自由報道協会主催の、福島原発事故に関する記者会見)」を見ることが出来ました。
http://www.youtube.com/watch?v=sraQ7NjFRr8
そこで、原口前総務相は、次の様に、「非常用復水器(IC)」除去に対して、非難の声を上げておられました。
4月3日私達(上原氏(佐賀大学元学長)と御一緒?)が東電に行って、設計図を見ながら、蒸気冷却系があるはずだと問うと、“無いんです”の答えが返ってきた。 平成15年第10回原子力安全委員会の定例会の議事録、第28回の原子力安全委員会の非常会(?)の議事録を読みました、そうするとなんと、ECCS(Emergency core Cooling System:緊急炉心冷却装置)の一系統である蒸気冷却システムが取り外されていたことがわかりました。 当時は小泉内閣の時代。 浜岡原発で、ECCSの検査中に事故が起きている、当時は配管の不具合による事故と報じられていたが、今となっては、それも水素爆発であったのではないかと言われている。 (司会の上杉隆氏:5月29日の会見で、東京電力の松本さんが水素爆発だったと明言しています) |
何故、2〜6号機の「非常用復水器(IC)」を除去したミスの張本人たる勝俣社長(現在会長)又、片棒を担いだ小泉(首相)、平沼大臣、大島大臣、石原大臣、石破大臣、(現)自民党総裁の谷垣大臣(肩書は当時)の罪が問われもせず、又、問われようとしていないのでしょうか!?
(何故、除去の際1号機は除外されたのでしょうか!?)
そして、1号機「非常用復水器(IC)」操作ミスを非難しながらも、そのミスに至った原因を民間事故調も非難されていないのでは?
昨年(2011年)12月8日に放送されたNHKテレビ「メルトダウン〜福島第一原発」では、
当時中央制御室では電源喪失によって原子炉の状態を知る全ての計器類が見えなくなっていた。 その頃運転員たちが最も気にしていたのは、原子炉の水位です。 実はこの水位計の水位が誤っていて、深刻な事態へ進んだ。 3月11日午後9時ごろ、通勤バス用のバッテリーを運び込み計器の一部の復旧を図ると「原子炉水位が燃料上部プラス200と(本来の)原子炉状態とは異なる結果が出て、対策本部でも1号機はまだ大丈夫との認識が広がり、それなりの対策を進めていった。
ところが、スリーマイル島での事故の際には、水位計の表示から、原子炉内には水が無いのにあると勘違いし、事故の悪化につながった原因の一つとなっていた。
この事故をきっかけに日本でも非常時に信頼できる水位計を作るべきだとの議論が起きました。 (現状の水位計は、炉内温度の上昇により、水位計内部の機銃となる水が蒸発して、正確な水位が図れなくなる) しかし、有効な改善がされないまま今に至っていた。 |
このような不完全な水位計を放置して、(命がけで奮闘していた)原発作業員に責任を押し付けるのは、異常です。
それにしても、何故、1号機だけに「非常用復水器(IC)」が残っていたのでしょうか!?
アメリカでは、この「非常用復水器(IC)」を重要視して、日ごろから操作訓練を繰り返している |
とも紹介していました。
更には、
バッテリー喪失時、安全を確認するための予防的措置として、自動で弁が閉じ停止する。 その為、アメリカでは、電源がなくなった場合を想定して手動で弁を開ける訓練が行われている。 |
原発事故対策の専門家エド・ダイク氏は、次のように語っていました。
(全ての)電源を喪失した場合は、非常用復水器の弁を必ず開けておかなければなりません。 何があっても、非常用復水器だけは、即座に稼働させなければならないのです。 |
中央制御室のホワイトボードに記された事故への対応を見ると、全電源喪失の後、「非常用復水器」を意識した形跡はありません。 一旦停止したことに気づいていなかったのです。 発電所所員の証言:津波が来てもイソコン(非常用復水器)は動いていると、なんとなく思っていた。 初めて、イソコンの文字が出てくるのは17時19分、この時が事故の悪化を防ぐ大きなチャンスでした。 イソコンの損傷の有無等の確認の為、運転員を見回りに行かせます。 ……原子炉建屋の扉を開けた時、線量計が高い放射線を検知し、普段の装備だった運転員はここで引き返す。 この為、非常用復水器の弁が閉じたままなのに気が付かないまま、原子炉の状態が悪化していった。 第一原発 福良昌敏氏(ユニット所長)も、電源を失った後もイソコンが動いているという認識を待っておられた。 3か月をかけたシミュレーション(使用したソフトはサンプソン)の結果、全ての電源を失った後、水位は急速に低下、わずか1時間15分20秒で、水位は燃料の上部まで下がる。 4時間39分後、燃料が完全に露出、そして深夜にはメルトダウンが始まっていた。
シミュレーションを行った原子力の専門家たち(片岡勲大阪大学教授、宮野廣法政大学客員教授、二ノ方東工大教授)もこれほどの状態を想像していなかった。 特に驚いたのは、水位が下がってゆくそのスピードでした。 |
おかしいですよね、なぜこのようなシミュレーションをもっと前に行っていなかったのでしょうか!?
2〜6号機の「非常用復水器(IC)」除去を申請、承認する前に!
アメリカでは、「何があっても、非常用復水器だけは、即座に稼働させなければならない」との認識があるというのに!
1号機と同時に事故を起こしている、2、3号機に備わっていない、「非常用復水器(IC)」当時重要視しなかった(初めて、イソコンの文字が出てくるのは17時19分)ミスを現場作業員に押し付ける前に、2〜6号機の「非常用復水器(IC)」除去を申請、承認した大罪をもっと明らかにすべきです。
それを無視して、大罪の張本人達が、死を覚悟して事故対策に奮闘した菅さんバッシング(菅叩き)を行うとは、天に唾する行為ではありませんか!?
それから、読んでもよく分らないのですが、東電の「福島第一原子力発電所第1号機非常用復水器のドレン管の再循環回路への接続方法の変更の反映に係る報告書」
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120312i.pdf
を見ると次の記述があります。
1.ドレン管の接続方法を変更した理由 原子炉設置許可申請書,工事計画認可申請書,その他関係する図書類の調査並びに関係者の聞き取りを実施したが,非常用復水器(以下,「IC」という。)のドレン管の接続方法の変更理由について,確認することはできなかった。 以下に,あくまで推定になるが,設計変更の理由について考察する。 |
変更理由が今では分らないのは不思議です。
それでも次の件が気がかりです。
2) PLR系配管リークポテンシャルの低減 PLR系ポンプ吸い込み配管には,IC系配管の他,原子炉停止時冷却系(以下,「SHC系」という。)の配管が接続される。 PLR系配管への接続箇所を増やすことはリークポテンシャルを高めることになるため,PLR系Aポンプ吸い込み配管にSHC系配管を接続し,IC系についてはA,Bをひとつに合流させてからPLR系Bポンプ吸い込み配管に接続することとした可能性が考えられる。 なお,IC系の起動の成否は,動的機器である隔離弁の動作によるため,1系統の弁が動作失敗することも考慮し,弁構成をA系,B系独立させた設計として信頼性を確保している。 |
「接続箇所を増やすことはリークポテンシャルを高める」と書かれています。
(と言うことは、「接続箇所」から、時には漏れる事故があることを示しています。
「図1」を見て思うのですが、重そうな水槽が上部にあれば、地震で大いに揺れて、原子路間の配管の破損の確率は高い筈です)
更に次です。
一方,ドレン管については静的機器であり破断の可能性は非常に小さいものの,仮に破断した場合には,PLR系Bポンプ吸い込み配管に接続されていることから原子炉冷却材が漏えいする原子炉冷却材喪失事故(LOCA)となるが,この場合は非常用炉心冷却系が作動することから,IC系の機能は期待されていない。 |
「ドレン管」がどこに存在しているのか私にはわかりませんが、「破断した場合」、「非常用炉心冷却系が作動することから,IC系の機能は期待されていない」と書かれていますが、電源喪失時に「非常用炉心冷却系が作動」は不可能ですから「IC系の機能は期待されていない」と言えない筈です。
(筆者注:
LOCA:loss-of-cclant addident 冷却剤喪失事故、
PLR:Primary Loop Recirculation Sysytem 原子炉再循環系、
原子炉停止冷却系:Shut Down Cooling System)
ここで書かれている「接続箇所を増やすことはリークポテンシャルを高める」また「破断した場合」に関連するかわかりませんが、『NHK「かぶんブログ」』(2011年04月08日
(金)【山崎解説・問われる原発の耐震性】)の一部を次に引用させて頂きます。
福島第一原発の1号機は、2,3号機に比べて原子炉の状況が悪化するスピードが非常に速く、数時間で燃料を冷やす水が減り、圧力が急激に変化していたことがわかったのです。 …… 原子炉は、燃料の入った圧力容器と、それをまもる格納容器などで構成されています。 圧力容器のなかの水位は、燃料をすっぽり覆っていなければならないのですが、この水位が地震発生後、数時間で下がり、さらに燃料の入った圧力容器内の圧力が減って、かわりに格納容器内の圧力があがったことが資料からわかりました。 これが何を意味するかというと、圧力容器のどこかに漏れがあり、中の圧力が格納容器内ににげたことが可能性として考えられます。 そしてこの段階では津波ではなく、地震の揺れで影響を受けた可能性があります。 |
この「福島第一原発の1号機は、……悪化するスピードが非常に速く、数時間で燃料を冷やす水が減り、圧力が急激に変化していたことがわかった」原因として「この段階では津波ではなく、地震の揺れで影響を受けた可能性があります」とNHKは山崎記者の解説を報じているのです。
そして、テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターは、2012年3月11日の原発事故特別番組で、「圧力がかかって番組を切られても本望」と語り、次の発言をされたそうです。
(以下、http://www.j-cast.com/2012/03/12125193.html 2012/3/12 19:45 を参照させて頂きます)
11年12月28日の特番「メルトダウン 5日間の真実」で、津波が来る前に原発の配管に断裂が起こっていた可能性を指摘していたことに触れ、「今回、このスペシャル番組で、その追及をすることはできませんでした」と、配管の問題に切り込むことができなかったことに触れた。 |
このような「津波が来る前に原発の配管に断裂が起こっていた可能性」に関して、民間事故調も、しっかりと調査をされておられるのでしょうか!?
地震の後(又、地震前にも)問題とされている1号機の「非常用復水器(IC)」は、稼働状態にあったのでしょうか?
私は、今回のNHKの放送を見ながら、稼働状態になかった「非常用復水器(IC)」の重大事実を、作業員らの操作ミスに押し付けているように思えてなりませんでした。
そして、何よりも、2号機、3号機は、作業ミスどころか、現東電会長勝俣恒久氏の音頭取りで、「非常用復水器(IC)」は、撤去されて存在していなかったのです。
そして、重大事故へと進んでいったのです。
何故、2〜6号機の「非常用復水器(IC)」を撤去した方々の責任を、民間事故調をはじめ、メディア等は口を大にして、追求しないのでしょうか!?。
(参考資料)
先の拙文≪恩人(菅直人氏)を叩き出した私達≫の(参考資料:1)に、『週刊文春(2011.6.9号)』“福島原発非常時冷却システムを撤去した勝俣会長”の抜粋を引用させて頂きましたが、再掲させて頂きます。
…… 「なぜあれほど簡単にメルトダウンしてしまったのか。私は福島第1原発の事故以来、ずっと不思議に思っていました」 こう語るのは佐賀大学元学長の上原春男氏である。 上原氏は福島第一原発の復水器の設計に携わった経験を持つ。事故後、政府の招きで東電本店を訪れていた上原氏は、ある重大な事実に気がついたという。 「福島原発の設計時には、『蒸気凝縮系機能』という最後の砦となる冷却システムが存在していました。それはどうなったのかと東電に聞くと、『(そのシステムは)ない』というのです」 蒸気凝縮系機能というのは、原子炉から出る蒸気を配管に通し、「熱交換器」で冷やして水に戻し、再び原子炉に注水するという冷却システムのことだ。注水により炉心を冷やし、かつ原子炉内の圧力を下げる機能があるとされている。 「このシステムはECCS(緊急炉心冷却装置)の一系統なのです。通常の場合は原子炉を止めても、高圧炉心スプレーと低圧炉心スプレーなどの系統で冷却が出来る。しかし、これらの系統は電源がないと動かない。蒸気凝縮系機能は、電源がなくても作動する。ある意味、震災などの非常時にはいちばん大事な役割を果たすはずだった冷却システムなのです」(同前) 五月十二日、東電は三月十二日に福島第一原発の一号機がメルトダウンしていた事実を認め、24日には2号機、3号機もメルトダウンしている可能性が高いと発表した。原子炉が停止した時にはECCSという非常用冷却システムが作動するはずだった。だが、そこには″最後の砦″となる機能が存在しなかった。 いったいどういうことなのか──。 ここにある内部文書がある。〇三年二月十七日に開催された「第十回 原子力安全委員会定例会議」の議事録だ。 …… 議題に上がつていたのは〈(福島第一原発 二〜六号機の)蒸気凝縮系を削除する〉という設置変更について、 つまり最後の砦″の蒸気凝縮系機能の撤去が検討されていたのだ。 …… 中電の動きに追随するかのように東電も「蒸気凝縮系削除」の申請を進めた。 前出文書によると申請者は(東京電力株式会社 取締役社長 勝俣恒久)となっている。勝俣現会長だ。 …… 五月二十九日、東電本店で行われた会見で、私は「蒸気凝縮系」を削除して問題はなかったのかと質問した。すると東電の担当者はこう答えたのだ。 「現実問題としてこれまで一度も使ったことがなく、水位の制御が極めて難しい。浜岡原発で水素ガスが爆発した事故もあり、撤去したということです」 だがそもそも原発の安全は多重防護により築かれていたはずである。なぜあえて多重防護システムの一つを削ったのか。前出の上原氏もこう訝しがる。 「蒸気凝縮系は、最悪の場合≠ノ使う冷却システムです。それを使ったことがないからと撤去してしまうのは、安全神話ありきの発想だったとしか思えません」 …… だが、東電が福島第一原発から蒸気凝縮系機能を撤去しょうとしていた平成十五年は、まさに小泉政権時代だ。電力会社と二人三脚で原発を推進してきたのは自民党政権そのものだった。当時の経産大臣は原発推進派で知られる平沼赳夫氏(当時自民党、現たちあがれ日本)である。 …… 上原元学長はこう語る。 「結果としてメルトダウンをしている訳ですから、安全性に問題があったのは明らか。なぜ撤去したのか、東電には納得のいく説明を求めたいですね。ECCSは全ての原発に使われているシステムですから、福島第一だけの問題に止まらない可能性もあるのです」 あまりに杜撰な安全意識の上に、福島第一原発は存在していたのだ。 |
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