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景気対策とノーブレス・オブリージ

20091119

宇佐美 保

 腐敗しきった自民党政権に変わり民主党政権が誕生して、

 

“田や沼やよごれた御世を改めて 清くぞすめる白河の水

 

の期待に浸っていましたら、最近では、マスコミは“鳩山不況が到来する!”などと危機感を煽って、まるで、

 

“白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき”

 

の気分に私達を引き摺り込もうとしています。

 

 確かに、マスコミが伝える国民の第1の願いは「景気回復」でしょう。

しかし、長年の自民党政権の景気対策はどうだったのでしょうか?

赤字国債を大量に発行して「公共投資」を或いは、「輸出企業を中心とする大企業優遇政策」を繰り返してきたのではないでしょうか?

そして、その結果が、この不景気です。

そして、派遣切りです。

 

 そしてなんと、前政権の小手先政策を引き継ぐ「エコポイント」です。

この件に関して、朝日新聞(20091118日)の記事は次のようです。

 

 

 菅直人副総理兼国家戦略相は17日の閣議後会見で、省エネ家電などの購入で付与される「エコポイント」制度の継続を検討する考えを示した。

 

 17日の閣議でまとめた「予算重点方針」は09年度2次補正予算に盛り込む経済対策を列挙し、エコポイント制度やエコカー(環境対応車)の購入補助などを環境分野で「即効性の高い施策」として例示した。10年度予算と一体で編成する2次補正に盛り込み、両制度を10年度も継続することが念頭にある。

 

 菅氏は、エコポイントなどについて「即効性の高いものだという認識は持っている」と発言した。家庭での太陽光発電の全量固定価格買い取り制度の導入により、太陽光パネルの需要増に結びつけることにも意欲を示している。

 

 

 との発言をしつつも菅氏は、「景気の2番底」を心配しておられます。

 

 なにしろ、今までの、

「公共投資」にしろ「エコポイント」も、
まるで「マッチ売りの少女政策」のようですから!

マッチが燃えている間は素敵な夢が繰り広げられます。

しかしマッチが燃え尽きたら、又、新しいマッチを擦らなくてはなりません

 

 そして、最後には、マッチの燃え殻しか残りません。

 

 そのマッチの燃え殻としては、「財務省のホームページ」を見れば、

国債・借入金残高合計:平成21年の見込は9,239,370億円

と書かれています。

 

 

ですから、私達は、「即効性の高い経済対策」を政府に期待出来ない事を肝に銘ずべきです。

即効的ではないにしろ、日本経済の体質を根本的に見直し再出発すべき時が来たのです。

日本の金融は、サブプライムローンに殆んど加担していないのに、輸出企業が落ち込んだといっても、輸出企業の経済寄与率は20%程度と言われているのに、何故、今回の不況が日本全土を覆ってしまったのでしょうか?

 

 

  従いまして、

“コンクリートではなく、人間を大事にする政治にしたい。”

との鳩山首相の旗印に共感します。

しかし、この旗印では、前述の「公共投資」や「エコポイント」などの(一時限りであっても即効的で表面的な)景気回復は困難なので、マスコミの餌食にもなりかねません。

(否!既に餌食になっているようです)

 

 以前、

私は、景気対策の最も効果的な対策は、“お金持ちが金を使うことだ”と友人に言いましたら、
金持ちはケチだから金が貯まるのだ(「溜まる」と書くべきでしょうか?)”と、一笑に付されてしまいました。

 

 言われてみれば、成る程そうです。

自他共に認める

大金持ちの麻生太郎氏は(貯めた方法はいざ知らず)、
自らばら撒いた約
2万円に付け加えて“この際大型テレビを買う積もりだ”と
テレビに向かって語っていましたっけ。

麻生氏は、九州飯塚には、廊下の長さは100メートルあったりするお屋敷を、更に、渋谷の高級住宅街に大邸宅をお持ちとか。

(その大邸宅を大勢の方が、外観だけでも目にしたいと出かけようとした途端、彼らの願いは警察によって踏みにじられてしまったのでした)

 

ですから、麻生家には大型テレビなど掃いて捨てるほどあると思っていましたので、びっくり仰天でした。

 

なにしろ、貧乏人の私ですら、オペラのDVDを楽しむ為に、プラズマも液晶もない時代、ソニーの37インチのトリニトロンテレビ(今では大型とはいえないのかしら?)を購入しました。

勿論、そんな大型テレビは置く所もないので、庭への出入り口の高さ1間、間口1.5間のガラス戸の前にステレオ装置ともども置いています。

(勿論、庭への出入りは、スピーカーとテレビの間を体を横にして、どうやらこうにかすり抜けている有様です)

更なる大画面が欲しくて、プロジェクトテレビ用の100インチのスクリーンも買いましたが、それを吊り下げるには、我が家の天井は頑丈でないので、スクリーンは部屋の隅に巻き上げて立てかけられたままです。

 

麻生氏は、連日連夜、ホテルのバーで飲んでいるようでしたが、それも安価であると開き直っておりました。

何故、麻生氏のような大金持ちがお金を使わないのか不思議でなりません。

(私が大金持ちになれば直ぐその理由が分かるのかもしれませんが)

 

 それとも、いずれの日にか、貧しい人や、麻生炭鉱で犠牲になった方々、そのご遺族の方々の援助を目的とする基金設立に向けて貯め(溜め?)込んでいる最中なのでしょうか?

 

 麻生氏の件はさておきまして、ここで、鳩山首相の「私の政治哲学」から引用させて頂きつつ書きました、先の拙文《戦争よりもエコが良い(3)(鳩山由紀夫首相への期待)》より一部抜粋いたします。

 

この間、日本の伝統的な公共の領域は衰弱し、人々からお互いの絆が失われ、公共心も薄弱となった。……

 「友愛」の政治は、衰弱した日本の「公」の領域を復興し、また新たなる公の領域を創造し、それを担う人々を支援していく。そして人と人との絆を取り戻し、人と人が助け合い、人が人の役に立つことに生きがいを感じる社会、そうした共生の社会を創ることをめざす。

 

 

 「公共心も薄弱となった」の件は、どなたも日々実感されておられると存じます。

なにしろ、国のトップである政治家、大経営者が「」を失い「公共心も薄弱」さを曝け出しているのですから!

一方、「人が人の役に立つことに生きがいを感じる社会」の件では、雑誌「ビッグイシュー」を販売し生活費を得られておられる「ホームレスの方」の御言葉を思い起こして下さい。

(先の拙文《雑誌「ビッグイシュー日本版」をお勧めします》から、再掲させて頂きます)

 

人を愛すれば、人を好きになれるし、その人たちがいる街も好きになれる」、

今は、自分のためにではなく、人のために何かできないかと思っているんです

 

 この言葉を今の政治家や、大経営者達にお聞かせしたい思いが一杯です。

所得格差(富裕層と貧困層の2層化)が問題となっている現在、

 

「累進課税」を考慮すべきです。
御金持ちがお金で人の役に立つのも生きがいと感じて頂きたいものです。

 

 と申しますより、

「累進課税」こそは、「ノーブレス・オブリージ」そのものではないでしょうか?

残念なことに、鳩山首相の「私の政治哲学」にも、「民主党マニフェスト」にも、「累進課税」の見直しは顔を出していません。

(ただ、マニフェストに、「相対的に高所得者に有利な所得控除から、中・低所得者に有利な手当などへ切り替える。」との記述があるのみです)

 

 

 ここで、『週刊金曜日(2009.2.20号)』の「税金は金持ちから取れ!」との浦野広明氏(税理士、立正大学教授)の記述を抜粋させて頂きます。

 

 

……

 所得税の税率刻みは図1のように、一九七四年当時一九区分あり、所得税・住民税の最高税率は九三%であった。住民税も〇六年度税制改定により、それまでの三区分の累進税率(五%、一〇%、一三%)が廃止となり一律一〇%となった。これによって、国民の約六割は五%の住民税支払で済んでいたのに、一挙に一〇%の負担となった。

……

 法人税率は図2のように、八四年当時は四三・三%であったが、現在は三〇%まで下がっている。

 法人税は三〇%の比例税率(中小法人は八〇〇万円までの所得について二二%)を採用しており、累進構造となっていない。比例税率は所得の大小に関係なく、一律の税率が適用となる。

法人の課税所得が一億円でも三〇%、一〇〇億円の課税所得でも三〇%であり負担能力を考えていない。

比例税率(単一税率)に加え、巨大企業は数多くの企業優遇制度(引当金制度、準備金制度、連結納税制度、外国税額控原など)によって、実際の税負担は実効税率を大幅に下回っている

 応能原則の下で、法人税率は少なくとも一〇%から四〇%までの四段階の累進税率にすべきである。税率の引き下げは中小企業が要求すべきものであって、巨額所得については現行より高い税率にすべきである。アメリカでは、三五%の基本税率の下で一五%、二五%、三四%の軽減税率を有する超過累進構造を採用し、中小法人の税負担の軽減をしている。

 法人実効税率は、法人の所得に課税する国税(法人税)と地方税(法人住民税、事業税)負担率だが、日本の法人実効税率は約四〇%であり、アメリカやドイツと同程度である。

 

……

 企業が負担するのは法人諸税以外に社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険など)という目的税がある。企業負担についていうなら、この両者の合計を見る必要がある。が、図3のように、日本の負担は高いどころか低い

 さらに大企業優遇税制のなかでも、外国税額控除は特にひどい制度である。

内国法人(国内に本店等がある法人)が外国に支店等を置くと、その支店等から生ずる所得について、外国でわが国の法人税に当たる税(外国税額)がかかる。外国税額控除は、法人税額から外国税額を控除する制度である。いわゆる発展途上国では、外国企業の誘致や資本の導入を図るために、税の減免を行なっている。海外進出企業は税の軽減や免除を受けたうえ、実際には払っていない税金まで支払ったものとみなされて、わが国の法人税等から差し引かれる。これが「みなし外国税額控除」である。





……

 増税論者は何かにつけ消費税増税を持ち出す。所得額一〇〇万円と一〇〇〇万円の人が、二〇〇万円の生活必需品を買い、消費税を一〇万円負担したら、税負担割合は前者が一〇%、後者が一%となる。このように消費税は高所得者には少ない負担しか求めず、低所得者には多大な負担を強いる逆進税である。逆進税は課税標準の増加に伴って税負担率が低くなる租税であり、負担能力を考慮しない。……

福祉社会保障の充実は、応能負担に基づく税制改正によってのみ実現される。「不公平な税制をただす会」は図4のように、税制改正によって二一兆円の財源が生まれると試算している。

 




 何故こんな金持ち優遇税制になってしまったのでしょうか?

そして、その結果が今の日本です。

 

 しかし、「累進課税の増額」に対しては、麻生氏とは言わずとも反対される方もございましょうから、
(当面?)次のような累進課税控除策を講じてはいかがでしょうか?

 

高額消費(商品、食事、旅行等で)した場合、「無利子国債(注)」を購入した場合、
「エコポイント」のように「累進課税ポイント」として累進課税控除を、増額された累進課税分に適用するのです。

 

(注:この場合に適用する「無利子国債」は、直ぐには換金できず、
購入者が高齢、病気になったりして介護が必要になったり、貧乏になったりした場合のみに換金可能とする特殊な国債)

 

 

 何ヶ月だか前の雑誌『週刊金曜日』の投書欄に、「企業減税を廃止して増税せよ」といった投書を目にしました。

 

 その投書の趣旨は、

“税率を高くすると、企業は税金で巻き上げられるより、
設備投資や、交際費など以前のように何だかんだと
お金を使って税金の額を減らそうとするから、景気がよくなる”

だったかと存じます。

 

 

 会社の税金には疎い私ですから、“ああ!成る程なあ!”と投書者のご意見に感心しました。

 

 ですから、私の「累進課税控除策」も、企業増税(各種の控除を含む、この際「正規社員雇用促進控除」等も検討して欲しいものです)と同じとなるでしょう。

是非とも、浦野広明氏が訴えられるように、「累進税率の見直し」、「企業の累進税率の適用」(私は、これを

ノーブレス・オブリージ税

と称したいのです)を実施して欲しいものです。

 

 

 この浦野広明氏が訴えを裏付けるように、『しんぶん赤旗2008年7月7日』には次の記述が載っています。

 

空前の利益をあげるトヨタ自動車が二〇〇七年度に負担する法人税の実際の負担率が28・0%にすぎないことが、有価証券報告書で分かりました。

(この件に関する、グラフも)




 

 そして、浦野広明氏が「大企業優遇税制のなかでも、外国税額控除は特にひどい制度である」と記述されている件に関しては、成る程、次のようにに紹介されています。

 〇七年度の経常利益(一兆五千八百六億円)から推計すると、研究開発減税で八百二十二億円、外国税額控除で約七百五十九億円、受取配当益金不算入制度で約三百十六億円となり、これだけでも合計約千九百億円の減税を受けていることになります。



 更に、次の談話も載っています。

 

 日本経団連(御手洗冨士夫会長)は、大幅に軽減され、現行約40%の法人実効税率をさらに「30%を目途に引き下げるべきである」(〇八年度税制改正に関する提言)と主張しています。御手洗会長はその財源について「(御手洗ビジョンに消費税率を)一一年までに2%、一五年までに3%ぐらい上げると明確に書いてある」(〇七年二月二十六日)と明言しています。

 
 御手洗氏は「高額所得者」でしょう、だったら浦野広明氏のご指摘通りに「低所得者には多大な負担を強いる逆進税である消費税」を打ち上げる前に「累進税率の見直し」を提起すべきと存じます。

 

 勿論、これらの増税で税収が増えても直ぐに景気が良くなる事はないでしょう。

そうなると、マスコミは、「株が下落した」、「為替がどうの」、更には、「外国投資家が逃げてしまう」などと騒ぎ立てるでしょう。

 

 しかし、待って下さい。

「外国投資家」の大部分は「外国投機家」ではありませんか!?

「株」も、「為替」も、その値が上下することで儲けている人たちがいるのです。

「株」も、「為替」も、実質的な経済を表している訳ではないのですから、これらの上下を殊更に報道するマスコミの姿勢が私には理解できません。

 

 こんなマスコミに踊らされていたら、結局は、

 

“白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき”

 

に終わってしまうでしょう。

 

 それよりも、ノーブレス・オブリージの税収で弱者救済策を計りつつ(「子ども手当」の支給対象に所得制限を設けず)、外国のお金に頼らず、1400兆円あるとも言われている国民預貯金を有効活用しながら、安心して暮らせる日本社会を築いて行きたいものです。


(補足)
しかし、「機密費問題」等に於いて、民主党政権自体が「田沼化」する傾向がある点は心配です。


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