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私は小野伸二選手が好きですが中田英寿選手は嫌いです(
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2006628

宇佐美 保

 

 本題に入る前に、W杯の対ブラジル戦の前日、ケーブルテレビ朝日ニュースターの番組「ニュースの深層」に於ける、葉千栄東海大学教授とスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏による“W杯に見るスポーツ報道の問題点”対談には、多くの示唆に富む発言がありましたので、先ずはこれら貴重な発言を紹介させて頂きます。

 

 今回のW杯報道に対して谷口氏は“偏った演出で番組が作られていて嫌悪感を抱いた”と、次のように語っていました。

(以下は、私が纏めました)

 

テレビ局の目的は、スポーツを報道するのではなく、一般民衆を動員して、視聴率を稼ぐ事が最大目標!

(結果的には、クロアチア戦の民放の視聴率は70%)

この目標達成の為に次の手段を講じた

 

1 バラエティー番組仕立てとする

2 緻密な分析もなく、“日本は勝つぞ!”のみを流し、日の丸ブランドを強調する

3 出演者には、“日本が負ける、不利だ” などの情報は流さない

 

 そして、この国の為政者共々「不安を煽ることを拒否している」

このような報道姿勢は、結果的には「スポーツの貧困」につながる。

 

 そして、葉氏の次の発言は、この谷口氏の発言を裏付けます。

 

 オーストラリアの23人の選手中、10人が英国のプレミアリーグで活躍中

はぼ、22人位がヨーロッパのクラブチームに所属

 

 クロアチアチームの選手の1819人はヨーロッパのプロリーグで活躍

 

 日本チームは、6人位はヨーロッパで活躍しているが、先発して活躍している選手は殆どいない

 

 以上の点は、次のホームページを訪ねさせて頂くとより明確となり、愕然とします。

http://members.jcom.home.ne.jp/wcup/2006WCaustralia.htm

http://members.jcom.home.ne.jp/wcup/2006WCcroatia.htm

 

 更には、次のような怒りの声をあげていました。

 

 日本戦で、2点を入れたオーストラリアの(ハリー・キューウェル)選手は、プレミアリーグのエバートンの選手として、2004年のシーズンでは、12点入れているのです。

何故これを紹介しないのか?

(その後の、クロアチア戦でも得点して、オーストラリアを決勝トーナメントに進出させています。)

 

 更に葉氏は、続けます。

 

 トリノ・オリンピックの時もそうでしたよ

金を8個か5個取るとか言ってましたよ

 

 谷口氏

 

 日本選手の前評判は、最強の米国選手が出場していない大会(名前は有名でも)での成績だけでしかないのに、(日本の金メダル大量獲得確実と日本中を躍らせてテレビに呼び込み)本番のオリンピックでは彼ら米国選手が登場してきたので、とても歯が立たなかったのです

 

 更に、葉氏は次のように質問しました。

 

 テレビ出演者は、誰一人として、
日本はクロアチアに負けるとコメントしませんでした。

何故なのでしょうか?

 

 谷口氏は答えました。

 

 テレビに出る事に自分(テレビ出演者)の存在が掛かっているから

テレビから消えたら、その人(テレビ出演者)の存在意義がどうなるか不安だから

テレビに出続けたい

その為には、テレビ出演者は、テレビ局が求めるコメンテータでなくてはならない

 

 そして、葉氏の質問

 

 テレビに出ているキャスター、元Jリーガー、元監督は、
ジーコ、川渕、
FWの4人に対する不満を全く言わない!

何故?

 

 谷口氏

 

 川渕キャプテンの権限は凄く、彼にNO!と言うジャーナリストは居ない

批判できない

批判すれば、サークル(川渕氏の取り巻き)から外される

その結果、肝心の情報が取れなくなる

(なにしろ、自分の取材能力がないと自覚しているから)

情報が取れなくなっては困るので川渕氏を批判は出来ない

 

 その結果、このような強力な権力が出来てしまった。

この川渕氏とジーコの間柄に、押し入って、どうのこうのとは言えない。

 

 葉氏

 

 

日本の伝統武道では、潔く負ける、しかも、相手に敬意を持って

 

 谷口氏

 

 武士道については、僕の考え方は違う

戦中、日本に居たドイツの知識人が
日本人の最大の特徴は、自己批判がないことだ
あるのは、自己愛(ナルシズム)だ”と言いました。

僕も全くそうだと思う。

 

 そして、谷口氏は続けます。

 

 (日本人は)“日本が勝つぞ、勝つぞ”に一番満足する

外国がどうか?は関係ない

潔さなど無い!

負けちゃうと何にもなくなってしまう

 

 これでは、スポーツそのものが、サッカーそのものが、
日本チームが今後どう反省して行くかの経験にならない。

 

 負けても経験にならない、

勝っても、みんな大喜びするけど、経験にならない

 

 テレビ局にとっては、刹那的でかまわない、
W杯後、日本チームがどうなってもかまわない。

彼らは、どれだけの人間をテレビに引き付けられるかが、勝負なのだ

 

 更に谷口氏は続けます。

 

 

FIFAのランキングは当てにならない!

(選手も)ランクしたのオーストラリアを見下していた


(なにしろ、
FIFAのランキングでは、
日本が
18位、クロアチアが23位、オーストラリアがなんと42位なんですから、
先に葉氏が指摘した
10人が英国のプレミアリーグで活躍中のオーストラリアチームが日本のはるか下にランクされているのですから驚きです!

ちなみに、韓国は、29位でした。)

 

 トルシエから切り替えたジーコの
みんな自分の好きな創造的なサッカーをやりなさい”が出来ますか!?

それは個人のレベルが世界的になってからの話

 

 何故、このようなサッカーを日本に要求するジーコ氏を
4年間も監督にしていたのでしょうか?

 

 葉氏

 

中田は試合後にもクールなコメントを発している

 

 谷口氏

 

 ああいう選手はテレビ局は好きではない、テレビ局との関係はタレントなのだから

 

 スポーツ自体の意義の為に、メディアが何をやらなければいけないか?ではない!

W杯の存在意義は、番組(商品)を如何に多くの人間に面白おかしく売りつけるかが全て

 

 このような報道をしながら、ナルシズムを全国的に広げ、経済大国ばかりでなく、スポーツ大国になって、大国意識を目指している。そして、それがいつしか国家主義につながってゆく

 

今回のように日本人の何処を煽って行けば、60%の視聴率が取れるかという事に、テレビ局は確信を持っている。

 

 そのことを利用して喜んでいるのは、小泉首相なりで・・・

先の日韓共催のW杯で、対ロシア戦を小泉首相は観戦し、日本が勝って盛り上がった時“国民が一体になること、これほど素晴らしいものは無い”と彼は言った

 

 為政者に一番必要なのは、「愛国者」とか「国民が一体となって、国に対して指示する意志を結集する」事で、この先、この国を何処へ持ってゆくのか?

非常に危ない方向へ持ってゆこうとしている

又、経済的定刻の膨張主義、覇権主義みたいなところに行こうとしているでしょ?

 

 なにしろ、2020年のオリンピックでは世界第3位のメダル獲得数を目指しているのですから!

こういうことを行うのが怖い

この意図が怖い

 

 メダル数よりも民衆の日常的なスポーツ環境の整備の方が大事なのではなかろうか!?

 

 サムライではなく、本当のスポーツ選手になるべき

潔く負けるのではなく

勝たねば意味が無いではない

 

 負けることの経験の重要性を知っているかどうか?
これがプロフェッショナルにとって大事なこと

 

 勝った時も驕らずに

負けるという事がいつ自分に回ってくるか分らない、
だから、勝った時に負けるという立場に立てるかどうかが重要

 

 ナルシズムではなく、自己分析、自己批判、自己反省が出来るかが、
プロフェッショナルなスポーツ選手にとって一番のポイントと思っている

 

 勿論、今回の谷口氏の発言は、今回のW杯(トリノ・オリンピック)に限った話ではありません。

 

 数ヶ月前には、テレビ局は、野球の世界大会(?)であるWBCに於いて大成功を収めました。

小泉首相の思惑通りに、日本国民一体となって、日本チームを応援して、その勝利に酔っていました。

そして、WBCで日本チームが優勝して以来イチロー選手の評価は上昇し続け「国民栄誉章」授与までも話題に上がり、テレビのCMへの出演は増大したようです。

 

 私には、この現象が不思議でなりません。

先の拙文《尊敬する松井秀喜選手と天才野球少年イチロー選手》に記述しましたように、相手チーム(相手国)への数々の暴言態度に非難の声もあげない日本人が不思議でなりませんでした。

 

 しかし、

 今回の谷口氏の「サムライではなく真のスポーツ選手(プロフェッショナル)たれ!」発言は、イチロー選手に対して発せられたのでは?

と私は思わずに居られませんでした。

 イチロー選手は、数ヶ月前(?)米国の小学校を訪問し(毎年恒例)次のように子供達に語りかけていました。

 

 自分が好きになれるような人になれ

 

これでは谷口氏の言われる「ナルシズム」です。

 

 私は驚きました。

WBCでの暴言等から彼は反省していたら、次のように発言したろうに!

 

 自分を好きになる前に、他人を好きになる人になれ

 

と。

 

 このようなイチロー選手を、日本は挙って賞賛して、今回のW杯では、

 

 中田英寿は、WBCに於けるイチローとなれ!

 

 の大合唱がマスコミなどから巻き起こっていました。

 

 その為か、中田選手は、仲間達を食事に誘ったりしたそうです。

何か勘違いしては居ませんか?

イチロー選手がWBCの日本チーム選手達を纏め上げたからWBCにて日本が優勝したのでしょうか?

確かに、WBCに参加した(否!参加させられた?)選手達は、当初は不満を抱いていたのでしょう。

なにしろ、大事なシーズン(自分達の生活が掛かっている)前に、訳の分らないWBCに引き摺り出されては迷惑だ!と思った選手が大部分であったかもしれません。

 

 WBC日本チームそしてソフトバンクの監督である王監督の子飼いで大リーグに移った城島選手、井口選手も参加せず、日本の最強バッターである松井秀喜選手も参加していないのですから。

(城島選手は大リーグに移ったばかり、井口選手はまだ2年目、松井選手は高額年俸を獲得した最初の年といった具合に、今年は、彼らの足場を固める大事な年でした。

一方、イチロー選手は大リーグにて数々の記録を打ち立て誰も彼の行動に文句のつけようが無い地位を獲得しています。

この点は、松井選手のヤンキースでの同僚のジーター選手にも当てはまります。

ところが、もう一人の同僚であるアレックス・ロドリゲス、米国とドミニカ共和国の両方の市民権があるため複雑な立場だったはずです。

米国チームを断れば、ドミニカチームへの参加を強要されるでしょう、となると、どちらかのチームで参加しなければならないとしたら、ヤンキースで期待されたほどの成績を収めていない彼としては、米国チームへの参加を選択したのではないでしょうか?

 

しかし、オリンピックなら日本選手たちは、進んで参加したでしょう!

先のオリンピックの後、松坂投手や中村選手などは、日の丸を背負って戦う喜びを、そして、敗戦の無念さを興奮しながら語っていたのを思い出します。

 

 ですから、オリンピックのような大会でしたら、イチロー選手云々の問題は発生しないのです。

では、WBCに於いて、イチロー選手が、選手達を食事などに誘って、又、数々の刺激的な発言行動で日本選手たちを纏め上げ奮い立たせたのでしょうか?

 

 下種の私は別の見解を抱いております。

先ず、WBCが開始された当初は、イチロー選手の存在(又、発言)に違和感を抱いていたのではないでしょうか?

それに、WBC(ワールドベースボールクラシック)とクラシックの名前が付くからといって、一人ユニホームのズボンの裾を膝したまで上げ、(野手として)一人大リーガーであると目立とうとしなくたって!良いではないか!?と反感を抱いた選手は居なかったでしょうか?

松井選手の穴埋め(?)に呼ばれた福留選手などは“俺の方がイチローより上だ!”と言わずとも、“イチローがでしゃばるなら俺なんか参加しなくても良いではないか!?”との思いを抱いていなかったでしょうか?

 

 ですから、イチロー選手が、仲間を食事に誘った効果(イチローの偉さ)は、イチロー選手が(大リーガーとしての立場から)日本チームの選手達の立場に降りてきたことにあるのではないでしょうか?!

そして、日本選手たちが当初抱いていた違和感が薄らいだのではないでしょうか?

(そして、これから、大リーグを目指す若手達にとっては、イチロー選手は大事な存在です。

契約の件、困った時の対処の仕方・・・今後イチロー選手のお世話を期待するところ大であった筈です。

大リーグで赫々たる実績を上げ続けているイチロー選手大リーグでの地位と、サッカー界での中田英寿選手の占める地位に大きな相違があります。)

 

 そして、日本チームが1本にまとめたのは、何よりも、勝利という良薬です。

そして、最後には、優勝という最高の良薬を選手達は口にして

 

 ですから、W杯直前に中田選手が仲間を食事に誘ったからといって、その効果を期待するのは無理です。

(第1戦のオーストラリア戦に勝利していたら、WBC的効果が出ていたかもしれません、なにしろ勝利という最良の良薬がチーム全員の全身を駆け巡るのですから!)

 

 

 

(補足:1

 又、谷口氏は次の点も付け加えました。

 

 英国のBBC放送では、オリンピックなどの国際的なイベント中継の際の放送コードが存在しており、その中には、“我が国”という言葉を使ってはいけないと規定されている。

中継中に「国家主義を煽る言葉」を使ってはいけないのです。

 

 

 

(補足:3

 FIFAランキングの当てにならない背景を匂わす記事(TVを考慮真昼に)が、朝日新聞(2006625日)に載って居ました。

 

日本の2戦、当初はナイターだった

 

 サッカーW杯ドイツ大会で16強入りを逃した日本代表。1次リーグ3試合のうち2試合が日本では夜10時開始だったため、テレビの生中継を見ながら多くの人が声援を送った。しかし、7時間遅れのドイツはまだ暑い時間帯。組み合わせ抽選の際、日本でのテレビ放送時間を考慮して夜から昼に試合時間が変更されていた。その結果、日本代表は酷暑での戦いを2度強いられた。

 

との記事ですが、この記事の中に、谷口氏の次の談話も載っていました。

 

スポーツビジネスに詳しいジャーナリストの谷口源太郎さんは「

NHKと民放でつくるジャパンコンソーシアムが支払ったとされる140億円の放送権料はアジアで突出している。それFIFAのビジネスも成り立っている

と話す。

 

 これでは、試合時間のみならず、ランキングも日本の放送局の要望(日本のランクが上のほうが視聴率は上がります)をFIFAは聞き入れてくれることでしょう。

 

 

(補足:2

 日本は、ブラジルに敗退しましたが、玉田選手の見事なシュートを1本見る事が出来ました。

しかし、その裏に、ブラジルの先発メンバーの5人が、オーストラリア戦の選手と交代していることをメディアは取り上げているでしょうか?!

 

 次表にオーストラリア戦と日本戦で異なる、ブラジルの先発メンバーの5人を掲げてみました。

オーストラリア戦先発 日本戦先発
アドリアーノ ロビーニョ
ゼロベルト ジウベルトシウバ
エメルソン ジュニーニョペルナンブカノ
ロベルトカルロス ジウベルト
カフー シシーニョ


 

それに、不調であった、ロナウドも日本戦に引き続き出場させています。

偶然(?)彼は2点も取りましたが!

 

 マスメディアはこの点をはっきり紹介していたでしょうか?


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