目次へ戻る

日本は「奇跡の憲法」を捨て「国益アニマル」に転落するのか

200345

宇佐美 保

 小泉首相は、米国のイラク攻撃直後(320日)「ブッシュ大統領の方針支持」への記者会見で驚くべき発言(毎日新聞より引用)をしています。

……日本としても。日本が戦後発展してきた基本方針で最も重要なことは日米同盟関係と国際協調体制を堅持していくことだと思う。日本は第2次世界大戦の反省から、二度と国際社会から孤立してはならない。……

 日本国の首相がこのような認識で良いのですか?

そして、いつの間にか「日米安保条約」は「日米同盟」なるとんでもない姿に変容してしまいました。

日米安保条約は日米同盟ですか!?

 

日米安保条約の「第五条(共同防衛)」には、“日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め……共通の危険に対処するように行動する”と書かれていますが、“米国施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、……”とは書かれていません。

ここで明らかなのは「日米安保条約」は、米国が日本を庇護するという条約であって、一般的な「同盟条約」とはいえる代物ではありません。

 

 なのに、「日米安保条約」を「日米同盟」と詐称して、米国のイラク攻撃を支持する発言をする小泉首相は、常軌を逸しています。

 

 しかも、上記の項目には、「……自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」と明記されているのですから、日本国の行動基準はあくまでも、日本国憲法(「平和憲法」)なのです。

 

 更に、日米安保条約の第一条(平和の維持のための努力)には、次のように明記されています。

 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武器の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。

 そして、国連憲章「第1条目的〕国際連合の目的」には、次の通り書かれています。

国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。

 

 従いまして、日本国憲法(「平和憲法」)並びに国際連合憲章を蔑ろにして、国連の場に於いて、世界各国に「米国によるイラク攻撃」の支持を訴えたり、国連の議決を得られないままイラクを攻撃した米国に賛同することは、条約違反であり、我が国の憲法を蔑ろにする行為なのです。

 

 そして、小泉首相は“…日本は米国の立場を支持しているが、一切武力行使しない。戦闘にも参加しない。…”と、世界の人達には顔向けも出来ないほど恥ずかしい発言を続けるのです。

米国には“戦争やれやれ!”と煽っておきながら、自分は“平和憲法の束縛があるから、戦争には荷担しません”などと、悲惨な戦争のテレビ見物を決め込む日本国を世界は尊敬しますか!?

 

 更に、次のように北朝鮮の関係を唐突に発言しています。

 北朝鮮との関係については昨年9月17日、北朝鮮を訪問し、日朝平壌宣言を発表し、現在の不正常な関係を終わらせることを確認した。この方針は現在も変わりない。北朝鮮との交渉は停滞しているが、宣言の精神を尊重し、誠実に実行に移し、不正常な関係を友好関係に変える。宣言の発表は成果だと認めている。今後も北朝鮮との交渉を進めて、将来の正常化のために、今後の交渉を進展させたい。

これは、“日本は、核武装を企てている北朝鮮からの庇護を米国に依存しなくてはならない特殊な事情があるので、フランス、ドイツ、ロシア、中国などと協調して、米国の行動に対してNO!といえないのだ”という事を、暗に仄めかしているのでしょう。

 

こんなご都合主義の日本、ご都合主義の「平和憲法」を世界は尊重しますか!?

尊敬しますか!?

 

 そして、そして、次のようなとんでもない発言をするのです。

……ブッシュ大統領は「これはイラクの武装解除を求めるものであり、イラク国民に対する攻撃ではない」と言っている。「イラク国民に自由を与え、将来、豊かな生活を築き上げる作戦だ」と言ってる。私もそうだと思う。……

……圧倒的多数の人が武力行使に反対だという気持ちは分かる。私も戦争か平和かと言えば、平和だと言うに決まっている。戦争は嫌いだ。戦争は避けたい。戦争ほど残酷なものはないと思う。しかし、いろんな国際決議を無視し続けてきたイラクの状況を見ると、また危険な破壊兵器を危険な独裁者が持った場合の脅威に対し、どうするのかと考えると、今回の米国の立場も理解できるし支持するのが国益にかなうと決断した。……

 多くのイラクの市民を殺戮しながら“イラク国民に対する攻撃ではない”との詭弁をふるうブッシュ大統領を、「平和憲法」を蔑ろにして、「国益の」名の下に賛同する日本国を世界は尊敬するでしょうか!?

そして、我が国の「平和憲法」を尊重するでしょうか!?

 

 そして、尚、驚く発言を小泉首相は続けました。

日本は第2次世界大戦の反省から、二度と国際社会から孤立してはならない。国際協調体制を図りながら発展を図る。同時に日本の安全確保するため、日本一国だけでは防衛は不十分だということから米国と安保条約を締結して、同盟関係を堅持することによって日本の安全を確保をしてきた。

 国連決議を無視しておきながら「二度と国際社会から孤立してはならない」と発言する神経はどうなっているのでしょうか?

更には、「日本一国だけでは防衛は不十分だということから米国と安保条約を締結して、同盟関係を堅持することによって日本の安全を確保をしてきた。」との発言から、小泉首相には「平和憲法」を鎮守し、世界にその存在を認知させる事の重要性を全く認識していない事が窺い知る事が出来ます。

 

 先に、私は「平和憲法は奇跡の憲法」を書きました。

昭和21(1946)年11月3日 公布され、昭和22(1947)年5月3日 施行された「平和憲法」が日本国に存在していなかったら、今の日本の繁栄はありましたか?

 

 よく思い出してください。

1950年6月25日に朝鮮戦争が勃発し、休戦協定が成立した1953年7月迄、約3年間続いたのです。

そして、朝鮮戦争開始直後1950年7月に占領軍司令官マッカーサーの指令で,日本には、警察予備隊(後の自衛隊)が創設されて居たのです。

ですから、当時日本に「平和憲法」が存在していなかったら、日本は直ちに再軍備して朝鮮戦争に参戦していたはずです。

 参戦していれば、戦後の日本復興の柱であった「朝鮮特需」どころでなく、莫大の出費を強いられて、日本の戦後復興は大幅に遅れたと思います。

平和憲法」(「奇跡の憲法」)が、日本の復興を支えてくれたのだと思います。

 更には、米国のアフガンへの攻撃、今回のイラクへの攻撃など武力行使で平和がもたらされるでしょうか?

世界は、武力行使の無意味さに気が付いて行くのではないでしょうか?

先に掲げた国連憲章の「国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。」へと世界は近づいて行くのではないでしょうか?

 

 戦後間もない頃、私は小学校で「スイスは、ヨーロッパの小国ですが永世中立国を宣言している国です」と教わり、スイスに対して尊敬の念を抱きました。

 

 今世界各国の小学生達が「日本の憲法は『平和憲法』なのです」と教えられた時に、可愛いい彼等彼女等は日本に尊敬の念を抱くでしょうか?

逆に日本を軽蔑するのではないでしょうか?

「日本は『平和憲法』を隠れ蓑にして、金だけ出して、自らの血も汗も流さない卑怯者の国家」との、クウェートが湾岸戦争後に下したと同じ評価を抱くのではありませんか?

ここで日本は小泉首相の認識を切り捨て、「軍国化への世論の移行」を押しとどめ、もう一度、平和憲法」(「奇跡の憲法」)に立ち戻り、世界に「平和」を訴え続ける使命を果たすべきではありませんか!?

 

 そして、この使命を貫く事によって、日本は世界に存在価値を認められ、尊敬され、ひいては、日本の平和が与えられるのではありませんか?

 
目次へ戻る