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米人質の代償に自衛隊の撤退

2004427

宇佐美 保

 

 国のトップが、情と礼節に欠けた人物で良いのかしら?と、私は、常々、大変不安に感じております。

 

朝日新聞(414日)によりますと、

 

北朝鮮による拉致被害者、蓮池薫さんの父秀量さんが13日会見し、薫さんと妻祐木子さんら5人が帰国してから1年半になることを受け、「進展がなく、全くの膠着(こうちゃく)状態でした。残念でなりません」と語り、改めて小泉首相に再度の訪朝を求める手紙を出したことを明らかにした。薫さんも「首相と面会したい」と話しているという。

 

何故、小泉首相は再度北朝鮮へ飛ばないのでしょうか?!

何故小泉首相は、拉致被害者の方々の苦しみを少しでも軽くしてあげる為にも、会食などで北朝鮮との交渉の進捗状況などを知らせてあげないのですか?!

 

 時間が無い?

そんなことはありませんよね。

なにしろ、今回のイラク人質事件の発生時には、ジャーナリスト達と会食されていたそうですから。

 

週間文春(2004.4.22)には次のように書かれています。

 

 事件発生当夜、小泉首相は大手新聞社の幹部と懇談していた。

「毎日新聞特別顧問の岩見隆夫氏、朝日新聞コラムニストの早野透氏、読売新聞編集委員の橋本五郎氏など数名で食事会を開いていたのです。安倍幹事長も同席していました。赤坂プリンスホテルの一室に部屋をとってフランス料理を運ばせ、首相はワインを結構飲んでいたと聞いています。

 席上の発言は完全オフレコということでしたが、微妙な話題も出ず、『この前、顔がおかしいとかいわれたけど、見たとおり、元気だよ』などと、首相は終始上機嫌で喋りっぱなし。

首相はすでに事件のことを知っていたんですが、八時過ぎに退席するまで、そのことはおくびにも出さなかったそうです」(官邸関係者)

 

 そして、その人質になられた不幸のご家族の方々に何故会わなかったのですか?!

朝日新聞(414日)には次のように記述されています。

 

 小泉首相は13日夕、イラクでの日本人人質事件への対応をめぐり、公明党の神崎代表と首相官邸で会談し、「テロには屈しない」との方針を確認した。神崎代表は、人質となっている3人の家族が首相との面会を求めていることを伝えたが、首相は「よく分かっているし、時期があると思っている。会うのを拒絶しているわけではない」と語った。

 また、首相は同日夜、「政府としても今年に入って13回退避勧告を出している。多くの国民は真剣に受け止めて頂きたい。これに従わず入ってしまう人がいるようだが、そういうことはしてほしくない」と記者団に述べ、日本人の渡航自粛を強く求めた。……

 

 拉致犯人達が「自衛隊がイラクから撤退しなければ、人質達を焼き殺す」と宣言している際、小泉氏は「犯人達の要求である自衛隊撤退が出来ない」というなら、この旨をご家族に直接会って説明するのが、人の道ではありませんか!

それが、「(面会するには)時期があると思っている」と云う小泉氏を私は人間とは思えません。

 

 その上、「政府としても今年に入って13回退避勧告を出している」と語っているようですが、回数がそんなにも重要ならば、では、北朝鮮へ拉致被害者の方々、そして家族の方々へ直接何度お会いになったのでしょうか?

 

回数が重要と思われるなら、ジャーナリスト達と会食する時間があるなら、拉致被害者の方々と、何度も何度も会食すべきではありませんか?!

(そして、人質被害のご家族とも何度も会食されれば良かったではありませんか!)

 

 そして、小泉氏や、福田官房長官は犯人達をテロリストと断定しています。

(朝日新聞:49日)

 

……犯人が要求しているイラクからの自衛隊撤退の考えがあるのかという質問に対し「ありませんね」と、自衛隊を撤退させない方針を示した。

 首相は、事件に対する自身の政治責任について「まず無事救出だ。私自身の問題ではない。国全体のイラク復興支援にどうかかわるかの問題だ。テロリストの卑劣な脅しに乗ってはいけない」と語った。犯人グループとの接触については「できていない。犯人がまだ特定されていない」と説明した。……

 福田官房長官は同日午前の記者会見で、犯人グループが要求している自衛隊の撤退の是非について「正確な情報を把握したうえで判断すべきことだ」と述べつつ、「撤退する理由がない。そう簡単に撤退とは言えない。テロの脅迫に踊らされてその通りにするのか。そう簡単なものじゃない」と強調した。理由として「(拘束された)3人ともイラク国民にマイナスのことをしているのか。プラスになるよう、危ないところに行っている。そういう人を捕まえて命を狙うのをイラク国民が許すのか。国際社会が許すのか」と語った。

 

 しかし、人質解放に尽力したイスラム聖職者協会のアブドウル・クバイシ師は、“犯人達はテロリストではない”と抗議している旨を、ジャーナリストの出井康博氏は、次のようにイラクから報告しています。

(週刊ポスト2004.4.30号)

 

 私は、ファルージヤの抵抗勢力に対して、多大な影響力を持つイスラム聖職者協会を訪れた。……厳戒態勢の中、私は聖職者協会幹部の一人で、公式スポークスバーソンを務めるアブドウル・クバイシ師を直撃した。

 クバイシ師は、まず、犯行グループが協会の呼びかけに応じて「24時間以内に解放する」としながら、期限が守られなかったことについて、

「拘束された3人には大変申し訳なく思う」

……解放が遅れた原因の一つとして、小泉首相の発言を挙げた

小泉首相は米軍と戦っている者たちのことをテロリストと呼んだが、(日本人を拘束した犯人を含め)彼らは決してテロリストではない。自分たちの土地と誇りを守ろうと戦っているだけだ。それがなぜテロリストなのか

 クバイシ師によれば、事件発生2日後に一度、バグダッドの日本大使館の関係者が、このモスクを訪れただけで、やはり日本政府からの接触はなかったというが、水面下で何らかの交渉があったと見る方が自然だろう。……

 

 そして、このクバイシ師の抗議を裏付けるように、イラクで武装勢力に拘束されたジャーナリスト安田純平さんは、日本外国特派員協会で記者会見で次のように発言しています。

 

 目隠しされ、武装勢力に連行された民家では、子どもがお茶を運んできた。「生活の場で処刑されることはないだろう」と安心した。食事も山盛りのご飯や新鮮な野菜などが与えられたという。

 安田さんは「(駐留米軍に)抵抗しているのは一部のテロリストやフセイン前政権の残党と言われるが、私たちが接した範囲では、地域住民が自分たちの社会や生活を守るために戦っている印象を受けた。レジスタンス(抵抗運動)と言ってもいいのではないか」と振り返った。

 

 そして、更に、不思議なのは、何故小泉氏は、人質解放に尽力した、イスラム聖職者協会の方々に謝意を示さないのでしょうか?

ですからこれらの点に関して、つぎの毎日新聞(418日)の記事を目にするのです。

 

 カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの映像によると、イラク・イスラム聖職者協会のアブドルサラム・クバイシ師は、安田純平さんら2人を在バグダッド日本大使館に引き渡す際、上村司イラク臨時代理大使に対し「昨日の川口順子外相の声明をテレビで見たが、聖職者協会への感謝の気持ちが伝わってこなかった」と不満を表明した。「声明は人質の解放を望んでいないように聞こえた」とも語った

 川口外相は15日に高遠菜穂子さんら3人がクバイシ師らを通じて解放された際、「イラクの関係者のご尽力と、世界各国からのご支援に心からお礼を申し上げたい」との談話を発表していた。聖職者協会の名前を挙げていないとするクバイシ師の不満について、外務省幹部は「誤解があるようだ」と当惑している。……

 

何故、小泉氏は、イラク・イスラム聖職者協会の方々にお礼をしないのでしょうか?!週刊朝日(4月30日号)には、次のように書かれています。

 

 小泉首相はそれでも、意味深なコメントをした。

 「まだ明らかにできないこともございます。各方面へのいろんな働きかけが功を奏したんだと思っております」

 

 小泉氏は、911事件の犯人がオサマビンラディンだとの証拠をブッシュ大統領から示されているが、今は秘密だとか、何でも、“今は秘密”で片付けています。

私には、大変卑怯な振る舞いと思えます。

 

少なくとも、“今は秘密”と云うからには、後日公開文書で、必ず、明らかにしなかれば、卑怯な振る舞いと云うことです。

 

 なにしろ、次の朝日新聞(419日)の記事にも、人質救出は、恰も小泉氏(聖職者協会ではなく)の尽力のお陰であるが如き談話が載っています。

 

 小泉首相は19日の衆院有事法制特別委員会で、イラクで拘束された日本人が解放されたことについて、「(自衛隊撤退という)理不尽な要求に国策が左右されてはならないという観点から、犯行グループの要求には応じない、テロには屈しない、そして3人の救出を図るという難しい仕事だった」と述べた。自民党の石崎岳氏の質問に答えた。

 福田官房長官は19日午前の記者会見で、犯行グループが自衛隊撤退を求めたことについて「自衛隊の人道復興支援をイラク国民がなぜ拒否するのかは非常にわかりにくい。もし分からない方がいれば説明が必要だ。しかし、イラク国民の中で日本への信頼感が非常に高いことをよく考え、復興支援に携わる責任がある」と語った。

 

 この記事の後半の福田発言に対しては、週間金曜日(2004.4.23)には、人質になられた方々と、自衛隊を対比して、永六輔氏は次のように書かれていました。

 

 

小さな親切、大きな迷惑

 

 この表現は、前掲の出井康博氏のレポートの後半部を見ても明らかとなってきます。

 

しかし、イラク・イスラム聖職者協会もまた、イラク国内に駐留する自衛隊の存在に異議を持っている。

 別の協会幹部はこう話す。

「米軍に従っている自衛隊は、紛れもなく占領軍の一部とみなしている。本来は良好であるはずのイラクと日本の関係を損なっているだけの存在で、即時撤退すべきだとわれわれは考えている」

 どんなに自衛隊が復興支援で貢献しようと、しよせんは米軍の一部というイラク人の見方に変わりはない。旧フセイン政権の崩壊から丸1年。

その米軍に対する現地の反感は、修復不可能なところまで達している。それは何もファルージャの抵抗勢力に限った話ではない……。

 

 ですから、私は大変不安なのです。

今のうちに自衛隊を引き上げておかなくて大丈夫なのでしょうか?!

 

 小泉氏も、福田氏も今は

 

テロリストの脅しに乗って自衛隊を撤退することはない!

 

と、大見得を切っていますが、本当に大丈夫ですか?!

 

 そして、福田氏の云う

 

イラク国民の中で日本への信頼感が非常に高い

 

との日本の財産が、近いうちに失われてしまうのではありませんか?

(その際は、小泉氏、福田氏らで自己責任をとられるのですか?)

 

不安は未だ続きます。

 

米人の人質交換条件として、自衛隊のイラクからの撤退

 

を押し付けられたら、福田氏のお父上のように、時代は変わっても結局は「人命は地球より重い」との結論に落ち着くのではありませんか?!
 

(補足)

  拙文《バカの壁と世論》の冒頭と、ダッカ人質事件の記事を抜粋します。

元朝日新聞編集委員(現AERAスタッフライター)の田岡俊治氏は、常々、朝日ニュースターの番組「パックインジャーナル」に於いて、
ダッカの際の人質は、米国人が居たからであって、「人命は地球より重い」と云われたその人命は、「米国人の人命」であって、日本政府にとっては「米国人の人命は地球より重い」と云うことだったのだ。

 と語っています。

(只、残念なことには、又、不思議なことには、田岡氏以外のジャーナリストは、この様な事実を誰も披露していないことです。

出来ましたら、田岡氏が、朝日新聞等で明確に全国民にこの事実を伝えて欲しいものです。)

 ところが、福田官房長官は次のような談話を発していました。(朝日新聞:49日)

 

 福田官房長官は9日午前の記者会見で、イラクでの日本人人質事件に関連し、父の福田赳夫首相(当時)が77年のダッカ事件で「人命は地球より重い」として赤軍派メンバーを釈放し、身代金を払う超法規的措置をとったことを問われ、「時代が違う。意味合いも違うんじゃないか」と述べた……


 そこで、「田岡説」検証の第一歩として、
ダッカ事件等について、朝日新聞(1985年5月20日)の記事を抜粋します。

 テルアビブ空港乱射事件は同派が起こした国際テロのはしりの事件で、以後、52年9月28日、インド上空で日航機を乗っ取ってバングラデシュのダッカ空港に強行着陸させた「ダッカ事件」まで約5年間に11件の国際テロ事件を起こした。

 49年9月13日に和光晴生、奥平純三ら3人が手りゅう弾、短銃を使ってオランダ・ハーグのフランス大使館を占拠、大使ら11人を人質にし、フランス当局に拘禁中の仲間1人を交換に奪還した。また、50年8月4日、マレーシアの米大使館を武装した奥平純三ら5人が占拠し、米領事ら53人を人質にして立てこもり、日本で逮捕、拘置中の日本赤軍の西川純、坂東国男ら5人と交換釈放させた。

 さらに、52年9月のダッカ事件では、丸岡修、坂東国男ら5人が武装して日航機を乗っ取り、乗客ら156人の人質と交換に日本で拘置中の奥平純三、大道寺あや子のほか殺人容疑で拘置中の仁平映ら計6人を釈放させたほか、現金600万ドル(16億円)の身代金を日本政府から奪った。

 

  おやおや、これでは、ダッカ事件どころか、それ以前の人質事件での人質が外国人(米国人)なら、「田岡説」通りに日本政府は簡単に犯人側の要求を受け入れていたのではありませんか!
 尚、ダッカ事件の詳細は、拙文《ダッカ人質事件と米国人》を御参照下さい。。



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