目次へ戻る

 

 

吉野家の牛丼とマスコミの怪

2004213

宇佐美

 

 最近のテレビ新聞による「吉野家牛丼フィーバー」報道から、何か異常さを感じませんか?!

例えば、211日付けの朝日新聞は次のようです。

 

吉野家の牛丼、最後の日 「売り切れご免」の店が続出

 牛丼チェーン最大手の吉野家は11日、牛丼類の販売最後の日を迎えた。牛海綿状脳症(BSE)の問題で米国産牛肉の輸入が止まって2カ月足らず。最後の2日間は全国各地で予想を大幅に上回る「駆け込み需要」があり、早々に「売り切れ御免」となる店が相次いだ。……

 11日朝、在庫が残っていた東京都中央区の新大橋通り八丁堀店には、休日出勤のサラリーマンたちが次々と訪れ、平常時の倍のペース。近くの会社員幡野伸明さん(42)は「牛皿」の並とご飯を注文。「いつもなら皿をもう一枚頼むところですが、ほかの人にも残しておきたいので我慢しました。最後の味は格別でした」と話した。

 

 そして、この米国の「問題のBSE牛は、カナダ産と確認」との記事が、毎日新聞(17日)に載っています。

 

問題の牛はカナダ産と確認 米農務省

 ……米国でBSE(牛海綿状脳症)感染乳牛が確認された問題で、米農務省は6日、問題の牛がカナダ産であることをDNA検査で確認したと発表した。カナダ当局も同様の検査結果を認めた。これにより牛が感染した場所がカナダだった可能性も出てきたが、感染源は判明しておらず、両国当局者は今後、感染を媒介したとみられる飼料の流通経路を重点的に調査する。

 米農務省などによると、この牛は97年4月にカナダ西部アルバータ州で生まれ、01年9月に米国に輸入された。同州では昨年5月にもBSE感染牛が見つかっているが、今回の事例との関連についてカナダ食品検査局は「両者を結びつける十分な証拠はない」と述べた。

 また、カナダ食品検査局の担当者は同日、感染牛の生まれた農場から、これまで発表されていた81頭に加え、別の何頭かが米国に輸入されていた可能性があることを明らかにした。……

 

 更に、朝日新聞(210日)には、次のようです。

 

 米農務省は9日、昨年12月に初めて米国で確認された牛海綿状脳症(BSE)感染牛に関する調査を打ち切る、と発表した。感染牛と一緒にカナダから輸入された牛の大半の所在を特定できず、感染源の飼料も分からなかったが、「感染牛以外は安全」と結論づけた。米政府は調査終了を受け、米国産牛肉の輸出再開に向け、日本など輸入国との交渉を加速させる方針だ。しかし、日本側は「履歴管理(トレーサビリティー)の不徹底を改めて示すものだ」(農水省)と受け止め、引き続き「日本と同等の対策」を求める構えで、交渉は長期化も予想される。

 米農務省の調査は、着手から約1カ月半で幕が引かれた。感染牛と一緒に01年9月にカナダの同じ牧場から輸入された80頭の行方を調べていたが、所在が確認できたのは28頭だけだった。この28頭を含め、カナダの同じ牧場で飼育されたとみられる計255頭を検査した結果、すべて陰性だったという。これをもとに、同省は「所在を特定できなかった残りの牛も、感染の恐れはほとんどないと確信している」とした。 ……

 

 米農務省の言い分は、論理性を欠いています。

感染牛と一緒に……カナダの同じ牧場から輸入された80頭……所在が確認できたのは28頭だけだった。この28頭を含め、カナダの同じ牧場で飼育されたとみられる計255頭を検査した結果、すべて陰性だった」からと云って、行方不明の52(=80-28)頭も陰性だとは言い切れません。

 

 それに、「カナダ食品検査局の担当者は同日、感染牛の生まれた農場から、これまで発表されていた81頭に加え、別の何頭かが米国に輸入されていた可能性があることを明らかにした」とのことですから、米国牛が安全とは言い切れません。

 

 その上、毎日新聞(119日)には、次のように書かれています。

 

 米国のBSE(牛海綿状脳症)問題で政府の合同調査団が米産牛肉の感染リスクを指摘する報告をまとめたことについて、農林水産省の石原葵事務次官は19日の会見で「米国の安全対策はまだ不十分であり、この調査結果を十分に念頭に置いて米国と協議したい」と述べ、週内にも米国が派遣してくる代表団との協議でも、輸入再開には全頭検査と同等の対応を求める方針は変えない意向を示した。

 報告は米国とカナダの牛肉関連産業の統合が進んでいることや、米国が97年8月から実施している肉骨粉の使用規制の実効性に問題があることから、「肉骨粉がエサに混じって感染原因となる交差汚染の可能性を否定できない」と指摘。米産牛の安全性は確認できないと結論づけていた。

 

 ここまでお読み頂きますと、最近の吉野家牛丼フィーバーを奇異に感じられると思います。

だってそうでしょう!?

マスコミに囃し立てられるようにして、サラリーマン達が別れを惜しみつつ味わった牛丼の牛、即ち、米国からの輸入在庫牛は、今現在、米国内で出回っている牛とその危険度に於いては、全く同じなのです。

 

 ですから、マスコミは、「ひょっとしたら、その牛丼危ないかもしれないよ?!」とサラリーマン達に忠告すべきだったと思うのですが?

しかし、「自分の食べる物の安全性(価格に見合った)は、自分で判断せよ」との見解を示す方も御座いましょう。

(例えば、日頃から、小泉首相の提灯持ち的発言をする(私は、そう感じるのです)木元教子氏は、テレビ番組「パックインジャーナル」中で、この様に語っていました。)

 

実際に、吉野家の社長は、この立場をとっているようです。

朝日新聞(213日)は次のようです。

 

 牛丼チェーン最大手、吉野家ディー・アンド・シーの安部修仁社長は12日、朝日新聞のインタビューで、米国産牛肉の輸入再開を巡る日米間協議の進展に期待を示すとともに、牛丼の「単品経営」へのこだわりを強調した。……

 ――輸入停止は長引きそうです。

 「安全のための基準をつくるのは重要だが、安心か不安かは消費者の選択の問題だ。米国は自らの正当性を主張するだけの態度から、対話姿勢に明らかに変わってきている。病原体がたまりやすい部位の除去徹底などが示されるのではないか」

 

 

 提灯持ちの木元教子氏や、吉野家社長のように「安心か不安かは消費者の選択の問題だ」で済むでしょうか?

 

 木元氏の発言に対して、先の番組中で「安くて安全性に劣る牛肉が市場に出回ったら、その牛肉が、高くて安全性に優れる牛肉と偽って売られてしまう」と田岡俊治氏が反論していました。

 

 この田岡反論を裏付けるような記事が、既に毎日新聞(12月29日)に載っています。

 長崎県大村市内のスーパーが米国産など外国産の牛肉を宮崎県産牛肉と表示して販売していた疑いがあることが分かった。県警は29日、不正競争防止法違反の疑いもあるとみて捜査を始めた。店長は偽装を認め、米国のBSE(牛海綿状脳症)問題を理由に挙げているという。……

 調べに対し、スーパーの店長は「BSE問題の対策としてやった」と話しているという。

 

 先の朝日新聞(213日)には次のようにも書かれています。

 ――なぜ、牛肉の調達先を米国から広げないのですか。

 「豪州牛は牧草で飼育している牛が中心で、我々の牛丼が求める味とは違う。(米国産と同じく)穀物で飼育している豪州産牛肉は少なく、国産と合わせても、全店(986店)をカバーする量には到底届かない

 
ところが、『吉野家が小泉首相を救う?』(週刊朝日:2004.2.20)には次のように書かれています。

 

 プッシュ大統領の地元・テキサスは全米で牛の飼育数が最も多い。しかも、牛肉業界はブッシュ共和党の強力な支持基盤で、米農務省の要職に人材を送り込んでいる。

……

「そのうち、ブッシュから電話がかかってくるかも。牛肉もよろしく、つて」

 首相周辺でも、そんな話が飛び交いだした。

 小泉政権にとってブッシュ政権との関係は命綱だ。とはいえ、牛肉の輸入で譲歩すれば「イラクへの自衛隊派遣に続く対米追従だ」との批判は避けられまい。まして今夏の参院選を控え、01年のBSE騒ぎのように「食の安全」で国内世論が盛り上がれば、引くに引けなくなる。小泉首相は相当深刻な状況に陥っても不思議ではなかった。

 ところが……。

 輸入停止後、メディアを独占したのは「食の安全」ではなく、「牛丼」だった。

 「米国産以外だとすぐには 『うまい、安い』 の牛丼ブランドは守れません」

 吉野家は積極的なメディア戦略を展開。「牛丼]デー」がサラリーマンの話題を独占し、「駆け込み需要」まで起きた。……

 農学博士でもある民主党の鮫島宗明衆院議員は、全頭検査を拒む米国に頼らなくても、BSEが発生していない豪州からの輸入拡大で対応できると考えた126日の衆院予算委員食の質問で首相から「全頭検査は譲らない」との言質を引き出そうとした。

豪州は日本人の嗜好に合った牛肉の生産を増やす体制に入りたいが、日本が米国の圧力で特例的に受け入れるのではないかと疑っている。世界に冠たる全頭検査体制を米国のために崩すことはないと言ってほしい

 米国産は麦やトウモロコシの穀物を与えて太らせる穀物飼育が多く、軟らかくて牛丼向きの味になる。豪州は広大な土地に放し飼いにする牧草飼育が主流だが、近年は日本向け穀物飼育を増産しており、

 「牛丼の味は負けない。10万トンは輸出を増やせる。設備投資をすればもっと増やせる」(豪州大使館)という。ただ、設備投資した矢先に米国からの輸入が再開したらたまらない、というわけだ。

……

 

 そして、この週刊朝日の勘ぐり(?)を裏付けるが如くに、今日のテレビでは、「吉野家の社長は、単独で米国へ飛び、米国の関係者達と接触してきた」と告げていました。

 


 この様な、マスコミの態度、吉野家社長の動きによって、折角確立された日本の食肉の安全性が、覆されて良いのでしょうか?!
食肉の安全性までも、アメリカに追随しなくてはならないのですか?!

 そこで私は、もう金輪際「吉野家の牛丼」は食べまいと決心し、ささやかな抵抗をするのです。


(補足)

 米国の一昔前の半導体分野に於ける生産検査態勢は、日本の足元にも及びませんでした。

(これは、半導体の生産に携わっていた私の実感です。)

その後、米国は日本の方式を取り入れ(自動車生産に於いても)、巻き返しを図ってきたのです。

この事を鑑みましたら、今後の日米の(ひいては世界の)食の安全を確保する為には、小泉首相は、全頭検査の実施をブッシュ大統領に決断させるべきなのです。


目次へ戻る