目次へ戻る

ドイツはEUの一員として生きる、しかし日本は?

2004118

宇佐美

 

 元西ドイツ首相ヘルムート・シュミット氏への、日高義樹氏(米国ハドソン研究所主席研究員)によるインタビュー(2003929日)が、昨年の1116日、テレビ東京で放映されていました。

 傾聴すべき貴重なインタビューでしたので、ここに紹介させて頂きたく存じます。

 

日高義樹氏:

ドイツと日本の将来について伺います。

日本、ドイツは両国とも戦争でアメリカに負けましたが、経済的な繁栄を遂げました。

これから何が起こるでしょう?

 

シュミット氏:

 日本とドイツの立場には大きな違いがある

ドイツは19495052年に、今はEUと呼ばれる体制を発足させた6ヶ国の1つだ

今やメンバーは15ヶ国になりまもなく25ヶ国になる。

EU1つの外交政策、防衛政策をとるようになるには、あと50年掛かるだろうが既に市場は一つになった。

貿易の国境がなくなった。

人々にも国境がない。

既に12ヶ国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインなどで共通通貨を使っている。

 

日本の場合、どの同盟のメンバーでもない。

日本と韓国、日本と中国の間の和解は本当には成立していない。

ドイツは周辺国のほとんど全部と和解している。

 

アメリカとの同盟関係に対するドイツの依存度は、ますます小さくなり、EUに頼るようになっている

遅くとも今世紀の半ばにはEUは完全に機能するようになる1950年から2050年までの1世紀で、それぞれ別の言語、歴史、文化を持ったいくつかの国が融合する。

たやすい仕事ではないが、成し遂げる。

ドイツの将来はEUの将来によって決まる

日本の将来を予測するのはより難しい。

 

日高義樹氏:

ドイツの場合、国家が終焉するわけですか?

 

シュミット氏:

国と国民のアイデンティティはイタリアにしろ、スペイン、フランス、オランダ、ドイツにしろ、残るだろう。

だが、ローマやパリ、ベルリン、ハーグの政府の考え方が以前のように重要な役割を果たすことはなくなる。

ヨーロッパの国々には千年にわたる歴史がある。

あるものは長く、あるものは短い。オランダなど

だが、フランス、ドイツ、イギリス、デンマークなどは約千年の歴史を持っている。

日本の歴史も短くない。

それに周辺国との戦争を繰り返してきてはいない。

日本は徳川政権下で、平和な時代を過ごした。周辺国に対して、長い間、国を閉ざした後、日本が国を開くのはドイツよりも難しい。

 

ドイツの将来は、EUの将来次第だ。

従って、日本とドイツの比較はわざとらしい。

 

日高義樹氏:

日本が周辺国と同盟を結ぶのは難しい。

完全に謝罪していないからです。

それだけでなく、周辺国は日本を憎んでいます。

謝罪したところで、彼らの憎悪を友情に変えるのは難しい。

 

シュミット氏:

私が見るところ、それは日本側の過ちだ。中国や蒙古、韓国、それに他の太平洋諸国を侵略したのは日本だ。

1945年に日本は敗北し、以来、日本は和解を求めているが、それには謝罪することが必要だ。

だが、今のところ謝罪していない。それが事を難しくしている

日本の指導者たちは間違っていた。

1つ、2つの例外を除いて、国民全体を納得させていない。

従って、アメリカに頼っているが、それは健全ではないし、日本の利益にならない

 

日高義樹氏による纏め

  ドイツはユーロの一員として生きようとしているが、日本は周りの国々から孤立してしまっている

  ドイツはこれまでの政治や通貨の体制をなくしたが、依然として独自の国民性を持ち続けている

  日本はアメリカとの関係だけに頼っている

      アメリカだけに依存することは日本のためにならないし、健全なことではない

 

 

(補足:放送の前半部分の抜粋)

シュミット氏:

 今回のアメリカとイランの戦争に対しては、ドイツ、フランスだけでなく中国、ロシアそれに多くの国々が戦争に反対の立場をとった。

何百万という人々、とりわけヨーロッパの人々が戦争には反対だった。

イギリスにしても国民の大多数が戦争に反対していた

そうした例はヨーロッパに沢山あった。

イタリアもだ。

事実サダム・フセインはアルカイダには何の関係もなかったし、大量破壊兵器を持っていなかった事が明らかになった。

今では戦争に反対した国々が正しかった事が証明されたわけだ。

サダム・フセインが大量破壊兵器を持っている、あるいは、彼がアルカイダと関係があるという証拠は何もなかったのだから……

私は始めからアメリカのイラクに対する戦争を批判してきた。

今も意見を変えるつもりはない。

 

日高義樹氏:

 何故ブッシュ大統領はイラクに対する戦争を始めたのでしょう?サダム・フセインはアルカイダとは関係がないとおっしゃいましたね?

 

シュミット氏:

 2年前に彼等が対イラク戦争について話し始めた頃から、私は、そう分析していた。

1年前、半年前も私の見方は正しかった。

それでも、何故戦争を始めたのか、答えるのは難しい。

アメリカ大統領と、その政権は大量破壊兵器があると信じていたようだ。

だが、何も発見出来ていない。

彼等はアルカイダとの関係も信じていたようだ。

サダム・フセインは邪悪な独裁者だが、その事自体が戦争を仕掛ける十分な理由になるとは思わない。

……

 

日高義樹氏による纏め

  アメリカのイラクに対する戦争は戦略的に間違っている。そもそも戦争を始める理由はなかった。

  サダム・フセインは途方もなく邪悪な独裁者だが、それだからといって戦争を仕掛ける理由にはならない。

  アメリカはイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸国」と非難しているが、この3つの国が同盟関係を持っていると     は思えない

    今のテロに対する戦争は世界大戦ではありえない

……

日高義樹氏:

ドイツと日本に民主主義を教えたと主張するアメリカ人がいます。

今度は中東に民主主義を教えたいと考えている……?

 

シュミット氏:

それはばかげた比較だ。

徳川の統治2世紀半、明治維新後の1世紀半という長い歴史を持つ日本とイラクを比較するのはばかげている。

ドイツの歴史も、歴史のないイラクとは全く異なっている

イラクは植民地勢力によって作られた人工的な国だ。

彼等は1919年にオスマントルコ帝国を滅ぼし、まず保護領を作った。

1945年以降は、あきらめ国家を作った。

それが歴史の全てだ。

日本やドイツと比べても意味がない。

……

日高義樹氏:

 フランスはアメリカが中東の石油に野心があると考えて戦争に反対したのでしょうか?

 

シュミット氏:

 フランスが戦争に反対したのは、石油が主な理由だったとは思わない。

イギリスやドイツについても同様だ。

世論が戦争に反対したのは石油やガスの為ではない。

彼等は戦争そのものに反対したのだ

……

日高義樹氏による纏め

  アメリカはイラクをうまく片づけられず、次の戦争など、とても始められないだろう。

  アメリカがイラクを攻撃した理由の多くの部分は石油であると考えられる。だが石油の為だけに戦争したわけ    ではない。

  21世紀、世界的な大戦争はありえないが、人口が増え過ぎた事によって利権を巡る争いやテロが続発するだ    ろう。

 

……

目次へ戻る