インチキ評論家が年金は黒字と嘘を言う
2003年12月27日
宇佐美 保
本日(12月27日)の「パックインジャーナル(朝日ニュースター)」なる番組中、インチキ経済評論家紺谷典子氏は、“現在、年金の積立金が226兆円も存在するから、年金は黒字だ”と暴論を展開していました。
紺谷氏の暴論(2001年3月の資料を基に)は、
1)
年金受給者への給付金(支出分)が40兆円であるが、この原資(収入分)として、掛け金(27兆円)と税金(6兆円)で33兆円、これでは支出の40兆円に対しての7兆円(=40-33)不足分は、積立金からの7%位の運用益(226兆円の7%は15兆8200億円)で充分賄えていて、そのおつり(例えば、15兆8200万円−7兆円=8兆8200億円)が積立金(ヘソクリ)になっていた。
2)
現在は低金利なので運用利回りが減じてしまい(神代氏談:平成13年度で5兆2千億円)不足分が出てきたが、この積立金を取り崩せば、収入分が0でも、5年は大丈夫だし、上手くやれば10年は持つ。
(神代氏の肩書き:放送大学教授、社会保障審議会の年金部会部会長代理)
この暴論に対して、年金の権威として紹介されていた神代氏をはじめ、同席者の誰一人として異議を唱えませんでした。
(全く勉強しない司会者の愛川欽也氏と、番組構成者の3流評論家の横尾氏も“積立金の存在を今まで知らなかった!”と情けない事を言っていました。)
紺谷氏は、年金の積立金の意味が全く理解出来ていないのです。
紺谷氏の言い分通りに、「積立金は運用益の余剰金のヘソクリ」だとしたら、そのヘソクリは年金開始時点ではゼロです。
このゼロのヘソクリから如何にして運用益を出してきたのですか?
紺谷氏はこの様なアホな発言をする前に、年金制度の歴史を一寸勉強しておくべきです。
神代氏は“日本の年金制度は発足時(昭和17、19年)は「積立金方式」であって……”と語っていました。
「積立金方式」については、年金財政ホームページ(厚生労働省年金局)を御覧になれば次のように解説されています。
(http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/yougo/you_ta.html#ta_015)
積立方式(つみたてほうしき)
年金制度の財政方式の1つで、将来の年金給付に必要な原資を、あらかじめ保険料で積み立てていく財政方式です。積立方式の場合、加入者や受給者の年齢構成が将来見通しどおり推移する限り、高齢化が進んでも保険料は影響を受けません。一方、保険料の運用収入を見込んで保険料を決めるため、金利の変動など経済的要因の影響を受けます。
即ち、「積立方式」とは、いわゆる「個人年金方式」なのです。
従って、今ある226兆円の積立金は、紺谷氏論のヘソクリではなくて、現在、年金給付を受けている人達と、これから受ける人達が積み立てたお金です。
そして、年金はこの積立金から支払われるべきなのです。
(紺谷氏の言うように、掛け金、税金がそのまま年金に支払われるのではないのです。
そして、厚生省の年金関係の元役人が番組中電話で“積立金は家庭に於ける預金のようなものだから、収入が足りなくなったら積立金を取り崩せば良い”と言った類の話にはならないのです。)
ところが、この趣旨から見ると、今の226兆円の積立金は異常に少ないのです。
(同席者の加藤氏(千葉商科大学学長)は、“本来は400兆円あった”と語っていました。)
なにしろ、226兆円は、年金生活者向けと、現役者向けとに、おおざっぱに分けると、半分ずつに分けられます。
となりますと、年金支給者への積立金は113兆円しかないのです。
ここから、毎年40兆円を支払っていたら、3年で破綻してしまいます。
(勿論、この3年間の内にお亡くなる方も御座いましょうし、この40兆円にも運用益が出ますから、3年よりも続けられるでしょうが、今後10年20年も支払って行く力はありません。)
自己の積立金とその運用益で自己分の年金支出をまかなうこの「積立金方式」が原理的に無理な方式なのでしょうか?
そんな事はありません。
若し、「積立金方式」が成り立たないなら、「個人年金」(又、K401は成立しません。)
悲しい事に、日本人は、自分達を、文化系と理科系に分類して安心安住しています。
特に、マスコミ人は、自分達は「文化系人間」との看板を押し立てて安易に収入を得ています。
酷い事には、彼等は数学(更には科学)に余りに疎すぎます。
この為に、官僚が数学を駆使して嘘詭弁を展開すると、マスコミ人は簡単に騙されてしまいます。
この端的な例が、「私達は、年金基金として積み立てた金額の2倍を年金として給付される」と言う数字の魔法に騙されてしまうからです。
なにしろ、数学に弱いと“私達が積み立てたお金の2倍を受け取る為には、当然、私達の次世代、次々世代のお世話にならなくてはならない”(「積立金方式」は駄目だ!)と思い込んでしまうのです。
でも一寸考えて下さい。
この考えるヒントの一番簡単な例は、「借金して家を建てたら銀行に、借りた金の2倍を返却しなくてはいけない。」との一般常識です。
この借金の2倍化を支えているのは、利子の力(それも複利の力)なのです。
私達は、この利子の力(複利の力)で、私達の年金積立金を容易に2倍化出来た筈なのです。
そこで、簡単な例として、20歳から59歳まで40年間、一定金額を積み立てて、その後、一定金額を60歳から85歳までの25年間(26回)年金を受け取るとした場合の、受取額(年間)の払込額(年間)に対する倍率と、運用益(運用利回り)との関係を計算してみますと次表のようになります。
勿論、60歳から85歳まで年金を受け取っている間も、自己の残りの積立金には利息が付きます。
また、残念ながら毎年受け取る毎に積立額は減少し、今回の計算の条件では、85歳時に受け取った途端ゼロとなるとして計算しています。
(この計算(符合)については、文末の(補足)を御参照下さい)
表:1 運用利回りと倍率(年間受取額/年間払込額) |
||||||||
利回り |
0.01 |
0.02 |
0.03 |
0.04 |
0.05 |
0.06 |
0.07 |
0.08 |
倍率(Y/X) |
2.12 |
2.96 |
4.17 |
5.88 |
8.31 |
11.8 |
16.7 |
23.8 |
ここで、現行の年間の払込額は、年収の13.58%とのことですから、次表に年間の受取額が年収の何%になるかを計算して表示しました。
(参考の為に、神代氏は“年金制度(「積立金方式」)発足時は年収の11%で、戦後には年収の3%の時もあった”と語っておられましたので、この両者の場合も比較の為計算しました。更には、今回の改正案(?)の18.35%についても計算してみました。)
表:2 運用利回りと倍率(年間受取額/年間払込額) |
||||||||
利回 |
0.01 |
0.02 |
0.03 |
0.04 |
0.05 |
0.06 |
0.07 |
0.08 |
13.58% |
28.7 |
40.3 |
56.6 |
79.8 |
113 |
160 |
227 |
323 |
11% |
23.3 |
32.6 |
45.8 |
64.7 |
91.5 |
130 |
184 |
262 |
3% |
6.35 |
8.89 |
12.5 |
17.6 |
24.9 |
35.4 |
50.2 |
71.3 |
18.35% |
38.8 |
54.4 |
76.5 |
108 |
153 |
216 |
307 |
436 |
日頃は、金勘定に縁遠い私には、この金利の威力にはビックリしました。
紺谷氏の“今までは、7%で運用していた”との豪語が本当なら、神代氏が非難した、戦後の3%の払い込みでも、自分自身が積み立てた積立金から、年収の50.2%の受け取りが保障されていたのです。
そして、年間積立額が現行の年収の13.58%では、年金として年収の何と2.27倍もが受け取れる筈なのです。
運用利回りが3%でも、年収の56.6%も受け取れる筈だったのです。
(そして、低金利時代の今でも、2%弱の金利が確保出来れば、年収の18.32%の年間積立金でも、年金として年間収入の50%程度は受け取る事が出来るのです。)
何故、「積立金方式」の年金が破綻したのでしょうか?
原因は次のように考えられます。
-
第一の原因:積立金の運用ミス
加藤氏による“本来400兆円有ったという積立金が、226兆円に減っている”との指摘、又、同席の日刊ゲンダイの二木氏が“7〜80兆円不良債権化している”、そして、草薙氏の“年金会館と言った箱物を作ったり、天下り役人が食い物にしている”との指摘のように、積立金の運用を間違ったり、食い物にしてしまった為です。
なにしろ、拙文《年金資金運用基金》にも引用させて頂きましたが、3月8日の朝日新聞朝刊の、次の記事から判りますように、特殊法人を使っての株式への乱脈投資が懸念されるわけです。
(私が茶文字に変換した箇所だけでも、ご覧ください)
年金資金の株式運用継続 厚労省、年金資金の株式運用継続へ 分科会意見書案 巨額の損失を出している公的年金積立金の株式運用について、厚生労働省の社会保障審議会年金資金運用分科会は7日、今後も株式投資を続けることが妥当とする意見書案をまとめた。今後の課題として、04年の制度改革に合わせた投資配分や運用指標の見直しをあげた。これを受けて同省は特殊法人「年金資金運用基金」を通じた株式の運用を継続する方針だ。 意見書案は、市場運用による収益のぶれを防ぐためには投資対象をできるだけ多くする長期分散投資が基本とし、「株式と債券を組み合わせた運用が妥当」とした。全額を国債運用に切り替えた場合、賃金や物価が上昇する局面では収益の確保が難しく、年金給付の増大に追いつかないことや、金利動向によっては損失が生じる可能性を指摘し、「債券保有割合を高めることが必ずしも安全性を高めることにならない」とした。 ただ、一部の委員からは「株式市場や経済に対する国民の心配にていねいに答える視点が欠落している」との指摘が出た。運用責任の所在に関する意見もあったが「運用にリスクが伴うのは仕方ないことで、結果責任は問わないのが常識。ルールの明確化や情報開示で対応すべきだ」(若杉敬明・分科会長)との見解が示されるにとどまった。 現在約150兆円ある厚生年金などの積立金は、政府の財政融資資金や財投債での運用以外に、年金資金運用基金が30兆円弱を市場で自主運用している。02年9月末現在で、国内株式には7兆円程度の年金資金が投入されており、全額が自主運用となる08年度では国内債券に68%、国内株式に12%が配分される計画だ。 90年代以降市場が低迷する中で、自主運用は元本割れが続いており、01年度の累積損失は約3兆円、02年度に入っても半年で約2兆円の巨額損失が発生している。年金資金の株式運用は、01年末に閣議決定した特殊法人等整理合理化計画で、04年の制度改革までに運用のあり方の再検討が求められていた。 |
第二の原因:物価変動
先に掲げた「年金財政ホームページ」を見ますと、「世代間扶養」との項目に「現役世代が生み出す富の一定割合をそのときそのときの高齢者世代に再分配するという仕組みをとることにより、物価スライドによって実質的価値を維持した年金を一生涯にわたって保障する……」と書かれています。
即ち、私達が知らない間に「今日、公的年金は、基本的には現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるという世代間扶養の考え方で運営されています。」と言う事態に陥っているのです。
なんと、「積立金方式」が、いつの間にか「賦課方式」に変わってしまっているのです。
(「賦課方式」:年金制度の財政方式の1つ。そのときに必要な年金原資を、そのときの現役世代の保険料でまかなう財政方式です。賦課方式の場合、保険料率は基本的に年金受給者と現役加入者の比率によって決まるため、人口の高齢化が進むと保険料は影響を受けます。)
一方「積立金方式」は、自己の積み立てたお金で自己の年金を払うのですから、人口の高齢化(少子化)の影響など全く受けないのです。
しかも、現在は、デフレ状況ですから、「積立金方式」を、こんな物価変動を考慮したという「世代間扶養」即ち「賦課方式」に変更する必要はないのです。
これでは、まるで「積立金の運用」の失敗を隠匿する為に「積立金方式」を、こっそりと「賦課方式」へと看板替えしてしまったと解釈出来ます。
(だってそうでしょう、「賦課方式」が“そのときに必要な年金原資を、そのときの現役世代の保険料でまかなう”というのなら、今までの積立金は全く表に表れない存在になってしまいます。
ですから、不勉強な愛川氏や横尾氏のように“積立金の存在を知らなかった”と言い出す始末になり、全く、インチキ官僚や議員の思う壷です。)
第三の原因:低金利
現在のような低金利は、年金制度発足時には読み込む事は出来なかった筈です。
「積立金方式」で、目標の「積立金の運用益」を捻出するのは難しくなります。
しかし、不思議なのは、金利は上下するのですから、何故高金利時代に「ヘソクリ」(「貯金」)をしておかなかったのでしょうか?
このおかしな例の例は、「厚生年金の代行制度」です。
この制度は、企業年金である厚生年金基金が、公的年金である厚生年金の一部を国から掛け金を預かって運用する制度です。
そして、この制度は高度成長期の昭和41年から始まったのですから、給付予定の利率(5・5%)よりも、高い利率での運用が可能だった為、大量の余剰金を確保でき、企業は給付する年金を増やしたり、保養施設を建設したりしたのです。
誰だって、今に思えば、何故これらの余剰金を今の低金利時代の為に蓄えておかなかったのでしょうか!?
誰だって、自分の年金を自分で積み立てていたら、こんな馬鹿げた真似はしないでしょう。
必ずこの余剰金を「貯金」し、「ヘソクリ」として、低金利時代に備えて蓄えるでしょう!
ところが役人達は、「年金なんか他人の金」との感覚ですから、大事な余剰金をヘソクルなど一顧だにせず、企業の無駄遣いを容認していたわけです。
そして、番組中電話口で応対していた元年金関係の役人は、今、こんな事はすっかり忘れたふりをして、「積立金が貯金」等と嘯いている始末です。
何度でも書きます。
「貯金とは、この高金利で確保出来た余剰金です」
そして、インチキ評論家の紺谷氏に、教えてあげましょう。
「ヘソクリとは、この高金利で確保出来た余剰金です」
あくまでも「年金の基本」は、自分の年金は自分で積み立てる「積立金方式」なのです。
そして、この「積立金方式」で不足する分は、その都度、その事情に応じて、補って行くべきなのです。
それなのに、官僚や議員達が自分達の「積立金の運用ミス」を隠匿する為に、「賦課方式」とか「世代間扶養」等の用語を導入して、“現役世代が高齢者世代を支える”等としてしまったら、現役世代の年金支払い意欲がそがれてしまうのは当たり前です。
誰しも、“他人の年金の為に、自分の懐を痛めるなんてまっぴらだ”と思うのが当然です。
年金制度の改革を云々するなら、先ず、従来の「積立金の実体」、「積立金運用ミス」をつまびらかにする事が絶対に必要です。
どのような収入支出、運用益(運用損失)があって、また、グリーンピアなどの不要な箱物建設での損失等を洗いざらい表に出して、積立金が現在の226兆円になった経緯を説明すべきです。
そして、謝罪し責任を取るべきです。
年金制度の改革、消費税変更検討などは、これらの実体解明と謝罪の後で行うべきです。
ところが、インチキ経済評論家の紺谷氏の無知に加えて、驚いた事には、本日のパックインジャーナルのゲストの神代氏(放送大学教授、社会保障審議会の年金部会部会長代理)は、“グリーンピアノ建設は、マスコミが作れ作れといったからつくったのでは?詳細は私の着任前の事なので知りません”と尻を捲っていたのです。
(補足)
利子の計算
年利(複利)がr(100r%)の積立預金に、40年間(20歳から59歳迄)、毎年X円ずつ積み立てるといくらの財産になるでしょうか?を計算してみましょう。
初年度に預け入れたX円は、40年後には、X(1+r)40となっています。
1年目に預け入れたX円は、39年後(=40-1)には、X(1+r)39となっています。
2年目に預け入れたX円は、38年後(=40-2)には、X(1+r)38となっています。
3年目に預け入れたX円は、37年後(=40-3)には、X(1+r)37となっています。
……
n年目に預け入れたX円は、40-n年後には、X(1+r)40-nとなっています。
……
39年目に預け入れたX円は、1年後(=40-39)には、X(1+r)1となっています。
これらを全て加えた金額が、40年間(複利)の積み立てた成果(S)です。
S=X((1+r)40+(1+r)39+(1+r)38+(1+r)37+……+(1+r)1)
これを計算しますと、(1-(1+r))S=X(1-(1+r)41)
∴ S=X((1+r)41-1))/r
この財産(S)を、毎年26年間(60歳〜85歳)均等に受け取れる金額(Y円)は、この新たな財産(S)に金利が付かないなら、その均等に受け取られる金額(Y円)は、
Y=S/26
です。
しかし、これらの新たな財産にも、毎年年利(r)の複利が付くとしますと、
初年度で、Y円の払い戻し後では、財産は、S-Yとなってしまいますが、
1年後には、金利が付いて、(S-Y)×(1+r)となります。
ここから、Y円を受け取ると、(S-Y)×(1+r)-Y に減ります。
2年後には、金利が付いて、
((S-Y)×(1+r)-Y)×(1+r)=S(1+r)2-Y((1+r)2+(1+r))
となります。
……
n年後の残りの財産は、
S(1+r)n-Y((1+r)n+(1+r)n-1+(1+r)n-2+(1+r)n-3……+(1+r))
……
26年後の財産(T)は、
T=S(1+r)26-Y((1+r)26+(1+r)25+(1+r)24+(1+r)23……+(1+r))
そして、この26年後に残った財産(T)から、最後のY円を払いだすと、全財産が無くなると考えますと、
当然、T=Yです。
従って、
Y=S(1+r)26-Y((1+r)26+(1+r)25+(1+r)24+(1+r)23……+(1+r))
∴ S(1+r)26=Y((1+r)26+(1+r)25+(1+r)24+(1+r)23……+(1+r)+1)
=Y((1+r)26+(1+r)25+(1+r)24+(1+r)23……+(1+r)1+(1+r)0)
この右辺の合計金額(U円)を計算しますと、
U((1+r)-1)=Y((1+r)27-1)
∴U=Y((1+r)27-1)/r
この関係を、先のSとの関係に戻しますと、
S(1+r)26=Y((1+r)27-1)/r
∴ Y=Sr(1+r)26/((1+r)27-1)
更に、先ほどのS=X((1+r)41-1))/rのSの値を此処に導入しますと、
Y= X((1+r)41-1)×(1+r)26/((1+r)27-1)
この金額が、60歳以降85歳まで、毎年払い出す事の出来る金額となります。