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お粗末な高村元外相

2003924

宇佐美 保

 今回の自民党総裁選は小泉氏の圧勝に終わりました。

なにしろ対立候補の3名が余りにもお粗末すぎました。

(と申しましても、自民党の人材は彼等とドングリの背比べなのでしょう?)

総裁選前の914日に放映されたテレビ朝日番組「サンデープロジェクト」(自民党総裁選の4名への候補者を集めての討論会)に於いて、司会の田原総一朗氏は次のように語っていました。

先進国の中で、経済状況が一番酷かったイタリアの借金のGDPに対する比率は136%だった。

ところが日本は既に141%なのです。

尚、この状態よりも酷いのは、昭和19年の軍事体制下に於ける日本の200%。

但し、18年は133%、17年では105%だった。

 この田原発言を受けて、亀井氏は“イタリアには、1400兆円の国民の金融資産があるか!?”と鉄面皮な発言をしていました。

(この亀井発言が如何に鉄面皮であるかは、拙文《国債を発行しても景気対策にはならない》、《国債音痴の政治家と田原総一朗氏》などにも書きました。)

 

 更には、高村元外相は、“先ずは、マクロ経済ありきなのです。それには、いつかは実施しなくてはならない「社会資本の整備」(いわゆる公共投資でしょう)を、金利が安い今やってしまえば、(今年に赤字が出ても、)子孫に借金を残すどころか、財産を残す事になるのだ、そして、この結果景気は上昇してゆくのだ。”と机を叩いて力説していました。

本当に、高村氏はポスト小泉と言われるだけの裁量の持ち主なのでしょうか!?

 

 そして、田原氏が“今まで、公共投資などを散々やってきたけど、結局はそれらは効果がなかった事が今や明らかになったのに、何故未だ、そんな事を言うのか!”と非難されると、亀井、高村、藤井3候補とも口を揃えて、“今までの景気対策は、少し景気が上向くと、直ぐ財布の紐を引き締めたからいけないのだ。”と自民党族議員が吹聴し続けている台詞を吐いていました。

(お粗末なものです。)

 

 今まで、どのように国債が発行されてきたかを、3候補とも統計的にも検証したら如何ですか?!

 

《日本経済入門》(日本経済新聞社発行)には、次のような「国債関連指標の推移」の表が記載されています。

 

国債関連指標の推移            (単位:億円、%)

年度

国債発行額

特例国債

発行残高

国債依存度

国債費比率

1975

20,000

-

149,731

94

5.3

85

116,800

57.300

1,344,314

22.2

19.2

88

88,410

31,510

1,567,803

15.6

19.6

89

71,110

13,310

1,609,100

11.8

18.4

90

55,932

-

1,663,379

8.4

20.7

91

53,430

-

1,716,473

7.6

22.0

92

72,800

-

1,783,681

10.1

22.8

93

81,300

-

1,925,393

11.2

21.3

94

136,430

31,388

2,066,046

18.7

19.6

95

125,980

28,511

2,251,847

17.7

18.6

96

210,290

119,980

2,446,581

28.0

21.8

97

167,090

74,700

2,579,875

21.6

21.7

98

155,570

71,300

2,990,000

20.0

22.2

99

310,500

217,100

3,346,195

37.9

24.2

2000

326,100

234,600

3,675,547

38.4

25.8

2001

283,180

195,580

3,884,570

34.3

20.8

2002

300,000

232,100

4,139,632

36.9

20.5

(注)国債依存度は一般会計歳出予算の依存度、国債費比率は国債費の一般会計歳出予算に占める比率。当初予算ベース。

 

 一目瞭然ではありませんか!?

毎年毎年、とてつもなく多額の国債を発行し続けてきたではありませんか!

そして、その赤字国債のお陰でやっと積み上げた予算の内、2割以上の予算を、その国債の返却と利息の支払い等に割かなければならないのです。

 

 腐りきった政治家達(亀井氏は、ニューヨーク私立大教授の寉見氏に面と向かって、この様に罵倒されました。拙文《亀井静香氏よ静かにしてくれ》等を御参照下さい)は、先の3候補の台詞“今までの景気対策は、少し景気が上向くと、直ぐ財布の紐を引き締めたからいけないのだ。”を吐き続けていますが、何故そんな屁理屈をマスコミ等は論破して来なかったのでしょうか!?

 

 腐りきった政治家達が行った、赤字国債の大事なお金を使っての事業(即ち、土木建築等の公共投資による社会資本の充実)は、その事業によって産業が発達、経済活動が活発化しての景気の向上を目的としてきた筈です。

 

 だとしたら、その事業の経済的効果は、継続性の度合いよりも、蓄積量によって決まってくる筈です。

そして、ここ10年もの長きに渡って、公共投資をし続けてきたのですから、その累積量たるや、当初の景気対策としての計画以上な筈です。

なのにその効果が、未だ十分に発揮出来ていないとしたら、「その公共投資は景気対策の継続的効果には無縁であった」と認識すべきです。

(単に、お金をばらまいて、その分だけその時だけGDPの上昇が認められた、と言うだけの話だったのです。)

 

 従って、政治家達が国民の大事なお金(国債、即ち、国民の預貯金)を「風が吹けば桶屋が儲かる」的に投資効果が次から次へとの波及効果を生む事業に投資すべきだったのです。

 

それよりも、先ず、税収が少なくなった事(と言うより、一時期バブルで税収が膨らんだだけ)をしっかりと認めて、新たな予算編成に力を注ぐべきだった筈です。

この点は次の2つのグラフを見比べれば明かな筈です。

国税収入の推移(財務省ホームページより) GDPと地価総額、株式時価総額

 従って、賢明なる政治家ならば、今後はバブル時の税収は見込めないとの認識の下に、財政を立て直すべきと考えるのが当然と思います。

 

 高村氏の“今は金利が安いから、今の内に金を借りて将来のインフラ整備を実施しよう”としたところで、その金は返さなくてはいけないのです。

いつ返すのですか?

今までに、税収の10倍以上のお金を借りているのに、どうやって返すのですか?

10年で返せずに借り換えしてゆけば、そのうちに又金利は上昇しているでしょう。

高村氏の“今は金利が安いから……”は通用しないのです。

 

 ところが、自民党の或る地方議員が次の選挙での自身の生き残りの為に、この高村方式を評価している姿が、数日前のニュースステーションで映し出されていました。

 

 日本人が生きてゆく為よりも、(当然ながら?)この国の政治家は上から下まで自身の生き残りを最優先しているのです。

 

 事実、総裁選前はすったもんだした挙げ句、安倍晋三氏を幹事長に据えたりした新小泉内閣は、「選挙向け内閣」とさえ言われています。

 

 代議士の椅子にしがみつく政治家達は今後もどんどん国債を発行して、その国債が国民の金融資産で賄い切れなくなったら、これ幸いと「日銀券」をどんどんと印刷して日本中にばらまくのでしょう?

そして、止めどもないインフレによって、貨幣価値を暴落させて、それまでに累積された(多分1400兆円以上の)国債を、そして又、国民の金融資産全てを、紙屑同然としてしまうのでしょう。

 

 そんな時でも、それらの情報を手中に収めている彼等は前もってそれなりの手を打って大儲けして、お気楽に生き残るのでしょう。

 

 このように、仕組まれたインフレで直ぐ思い起こすのは、1930111日、当時、その容貌からライオンと渾名されていた民政党浜口雄幸首相と、井上準之助大蔵大臣の手で行った「金輸出解禁」を巡る歴史の一齣です。

 浜口首相がテロの凶弾に倒れた後、結局は、翌年1213日、元老西園寺公の奏請によって対立政党の政友会犬養毅氏が新内閣を発足するや「禁輸出債禁止」の実施に到る経緯です。

 この件に関して、城山三郎著『男子の本懐』を抜粋させて頂きます。

……ドルを買って置いて、さてそのもうけを握るためには金再禁止を行わしめなければならぬ。しかるに民政党内閣は断じてそれを行わぬ。政府をして金再禁止を行わしめる為には政変を起す必要があった。政変の結果として出現した政友会内閣は、就任式の当日金再禁止を行った。その日ある財閥の重役は自分のビルヂングの給仕・小使にまで祝賀のチップを出した。売られた円、買われたドル、売られた内閣、買われた内閣、それは売られた日本、買われたアメリカである。

……金再禁止になると、東京のある二軒のデパートは店員に徹夜さして、正札を値上さした。機敏に物価は上る。月給や賃金は遅々として上らない。生活苦は加わる。そして皆んなが苦しむのなら我慢が出来るが、一方には財閥は少くとも六千万円はもうける。国の犠牲に於て、民衆の犠牲においてである。だから今度の政変は考えれば考える程、胸が悪くなる。

……この表面の政変の奥に、目を光らしている財閥があったことをば、西園寺公は見なか

ったか、忘れたか、関らなかった。

今まで西園寺公を崇拝し切っていた政治家は、その頃いったことがある。西園寺公が今度たれを推薦するかは、元老としての最後の試金石だ。日本を売る財閥を成功さすようなことをするならば、元老というものはあってもなくても同じことだと。

財閥が祝盃を挙げている今日、私はこの政治家に向って、西園寺をどう思うと、そう聞いてみる勇気がなくなった」(朝日・昭和七・一・四)

……

「銀座のカフェーを不景気にするような施政方針は取らないこと請合い」

 と新聞で評された犬養毅の内喝金輸出再禁止もしたため、世間はインフレ時代到来と受

けとった。

 円相場は二割あまりの暴落。小麦・木材・硫安はじめ輸入品の値段は、いっせいに高騰しはじめた。衣料品などの値上りを見越して買漁り客が殺到したため、東京のデパートの暮の売上は前年比四割増。貴金属宝石類はすでに値上げしていたにもかかわらず、売上は急増し、とくにダイヤモンドは前年比十割増の売れ行きとなった。……

更には、次の記述があります。

 政治家の売り物となるのは、常に好景気である。あと先を考えず、景気だけをばらまくのがいい。民衆の多くは、国を憂えるよりも、目先の不景気をもたらしたひとを憎む。古来、「デフレ政策を行って、命を全うした政治家は居ない」といわれるほどである。……


(この点では、小泉首相は希有の方なのでしょう、掛け声だけでなく是非とも改革の道を切り開いていって下さい。)

 

 そして、この城山氏の著作の記述中では、金解禁を覚悟した浜口首相が、その協力者として井上準之助氏に大蔵大臣就任を懇願する際の、次なる文面に私は心をひかれます。

「金解禁は、だれがやっても、果たしてうまく行くかどうか」

「承知している。只、われわれとしては最善を尽くしたい。その為にも、きみが欲しい」

 即答できないでいる井上に、珍しく浜口はたたみかけた。

「もっとも、この仕事は命がけだ。既に、自分は一身を国に捧げる覚悟を定めた。きみも君国のため、覚悟を同じくしてくれないか」

……

 仕事もよし。よし、この男に殉じよう。他の答えはなかった。

「わかった。引き受ける」

浜口は、逆立つような白髪を下げた。

「たのむ」


 わずか数分間で、二人の男は、思い運命をわかち合うことになった。……

 そして、この二人は、その後、凶弾に倒れてしまったのです。

 

 最近では、おかしな政治家達が、昔の「教育勅語」の類似品を教育の場に持ち込もうと画策していますが、彼等自身が先ず、この城山氏の著作『男子の本懐』をお読みになっては如何なものか?と私は思うのです。

 

 

 

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