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曽我ひとみさんをご家族のもとへ帰して

2003年4月15日

宇佐美 保

曾我ひとみさんのお姿をテレビで見るたびに、いつもいつも、お気の毒な思いで胸が一杯になります。

曽我ひとみさんの帰国して約半年間の思いを新聞記事(朝日新聞14日付け)で読みますとその思いが尚一層大きくなりました。

どんなに辛い事でも過ぎてしまえばある程度は耐えることは出来ましょう。

しかし、生き別れはどうやって耐えたらよいのでしょうか?

本当にお気の毒です。

……20年あまりも一緒にわらい、一緒に泣き、一緒にはげまし合って生きて来た私の大切な大切な家族との生き別れ。

 初めは旅行、今は家出でもなくなんと言えばいいのだろうか?

 私に会う人達は「がんばって下さい」とあたたかく声をかけてくれます。「ありがとうございます」と答えながらも、時々どうしてがんばればいいのか、自分でもわからない時が多くなりました。一つ解決したら又新しく悲しい出来事。あまりにも私にとってはつらいです。

 この半年、家族の深い深い愛を心から感じています。1月に届いた娘の手紙の中に、こんな言葉がありました。

 「おかあさん。おかあさんとこんなに長くはなれたのは初めてだヨネ。もうすぐ冬休みです。冬休みになったらおとうさんにおいしい物を作ってあげます」と泣きながら書いてくれた手紙。それは私にとってこの世界の中で一番の宝物です。

私の二つの家族。おとうさんとおかあさんと私と妹の一つの家族、むこうにいる夫と私と娘2人の家族。この二つの家族をばらばらにしたのはだれですか?

 そしてばらばらになった家族を又一緒にしてくれるのはだれですか? そしてそれはいつですか?

 心からよろこびあえる幸せの日を一日でも早く私にかえして下さい。

 

 そして、この曾我ひとみさんのこの思いに対して、次のような朝日新聞の4月16日の記事が載っています。

 川口外相15日午前の記者会見で、曽我ひとみさんの「家族をばらばらにしたのはだれですか」との問いかけに触れ、「歴史ということじゃないですか」と答えたことを聞いた安倍官房副長官は同日夕、あわてて記者団に「家族を引き離しているのは、明らかに北朝鮮だ」とコメントした。

 家族らに「今は我慢の時」と繰り返してきた安倍氏には、外相の物言いが許せないようだ。昨秋、5人の被害者を北朝鮮にいったん戻すかどうかをめぐって対立した安倍氏らと外務省サイドの溝は、なお埋まっていない。政府内にも「政府一体となって解決策を探る態勢になっていない」との声がある。

 

 これらの新聞記事から、私は、曾我ひとみさんの“この二つの家族をばらばらにしたのはだれですか?”の悲痛な叫びに、川口外相も、安倍官房副長官に対して真摯に答えていないことを感じるのです。

(何故お二人とも、自分の責任だと言わないのでしょうか?)

 

 曾我ひとみさんの思いを読みますと、亡き母が私へ与えてくれた“母の子供への思い”が胸にはっきりと浮かんできます。

母は、“しろがねも こがねも玉もなにせんに 勝れる宝 子にしかめやも”との万葉の歌人山上憶良の歌をいつもいつも私に語りかけていました。

そして、実際母の人生は、この最高の宝である子供に、自己を犠牲にして捧げるが如き人生でした。

 

曾我ひとみさんの“ばらばらになった家族を又一緒にしてくれるのはだれですか?”の願いの中には、 “私の家族を日本に帰して下さい”との言葉が無いのです。

その願いの中からは“北朝鮮に残された家族を早く日本に帰して下さい”の願いが適わないのなら、今直ぐ“私を北朝鮮の家族のもとへ戻して下さい”という悲痛な声が聞こえてくるではありませんか?

そして、娘さんからのお手紙を“この世界の中で一番の宝物です”と述べて居るではありませんか?

(曾我ひとみさんにとっては、日本での生活が最高の喜びではないのです。)

何故この曾我ひとみさんの微妙な言葉使いを理解してあげないのですか?

 

 母親にとって、自分一人が日本での幸福に浸かっていることは、北朝鮮で苦労している自分の家族に対する耐えられない程の罪悪とさえ感じはしませんか?

(逆の立場なら未だ耐えられましょうが)

 

 ところが、2002年10月31日付けの毎日新聞に公開されていた、北朝鮮拉致議連事務局長の平沢勝栄衆院議員の「永田町日記」には次のような記述があります。

 【23日(水)】
★家族会などが「5人の北朝鮮送還に反対し、5人の家族全員の帰国を求める」との要望書を政府に提出

…… 午前8時から、安倍副長官、地村さんの父保さん、浜本さんの兄雄幸さん、横田夫妻、拉致議連、救う会メンバー約10人で会合を開いた。家族は安倍副長官に「人質を取られて本人が自由に意思表示できない中で、意思確認をするというのは政府の責任逃れだ。政府が、5人は帰さない、家族は全員連れ戻すと明言してほしい」と要請した。安倍副長官は「よく分かった。少なくとも滞在延長の方向で全力を尽くす」と答えた。その後、鈴木大使、中山参与、斎木参事官が加わった。家族は鈴木大使に対し、「国交正常化交渉で5人は帰さないと強く言ってほしい」と要望した。鈴木大使は「みなさんの気持ちを体して交渉する」と明言した。拉致事件は最優先議題だが、経済支援も北朝鮮から話が出れば話し合いそのものを拒否することはできないとも言っていた。

…… 安倍副長官の本心は5人の帰国前から「帰さない」だったと思う。私も同じだ。安倍副長官は私に「5人が来日しなくなったら困るので事前の発言には気をつけてほしい。来日後は議連の立場でなら何を言ってもいいのではないか」と言っていた。 ……

 

 このような北朝鮮拉致議連や家族会の存在を無視して、曾我ひとみさんはご自身が北朝鮮の家族のもとへと帰りたいとの願いをストレートに表現することが出来ますか?

それにしましても、家族会がなんと言おうと拉致議連がなんと言おうと、何故安倍さん達は、曾我さん達ご本人の意向を直接聞いてあげないのですか?

 

かって、横田めぐみさんのお父さんが(家族会の決定は兎も角として)北朝鮮へ行きお孫さんのキム・ヘギョンさんへ会いに行きたいと語っていた画面をテレビで見た記憶があります。

ところが、3月11日付の朝日新聞には、次のような記事が載っています。

「救う会」が田中知事発言に反論 横田さん両親訪朝で

 北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの両親の訪朝をめぐり、田中康夫長野県知事が「救う会側が制約している」などと発言し、「救う会長野」は11日、記者会見して「事実誤認だ」と反論した。「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」「救う会全国協議会」と連名で抗議文を送っている。

 田中知事は5日の県議会一般質問で拉致問題への見解を尋ねられ、「横田めぐみさんのご両親が平壌の地を訪れて真相を究明したいというものを、『救う会』をはじめとする方々が一方的に制約するということは何の根拠をもってしてかと大変にいぶかしく思っている」などと述べた。

 救う会長野の塚田俊明事務局長は「横田夫妻、とりわけ早紀江さんは当初から訪朝に反対していた。全員一致の考えであり、制約はあり得ない」としている。

 抗議について、田中知事は「横田さんの父親が孫に会って真実を確かめたいと訪朝を望んだが、周囲が押しとどめたと聞いている。横田さんの願いをくんでこそ、集団主義国家とは異なる日本ではないか」と話している。

 (私は、ここでの田中知事の姿勢に全面的に賛成します。)

このような状況下(家族会のみならず、今もって行くえ不明の方々への配慮も含めて)、どうして曾我ひとみさんが心の内をそのまま正直に表現出来るでしょうか?

 

何故、家族会の方々や、その取り巻きの北朝鮮拉致議連の方々は、曽我ひとみさんの心持を理解してあげないのでしょうか?

この曽我ひとみさんの心を理解してあげる方が、女性の中から出てこないのでしょうか?

しかし、新拉致議連の副会長でもある小池百合子議員は、2002111衆議院外務委員会「北朝鮮拉致問題」で、次のような発言をしているのです。(小池氏ホームページより)

┄┄私は、いろいろと家族の方々との接点を持たせていただいて感じるところは、この御家族の方々、そしてある意味では御本人も含めてだと思いますけれども、基本的に微動だにしていない。そしてまた、時間がかかるということ、これについてももうおなかの中にすとんと落ちているというような状態にありますので、余り日本側から一生懸命努力をして、何月何日にしましょうよというような誘いかけをする必要もないんではないか。むしろ今は、北朝鮮側が日本が要求した回答を寄せてくるという、そういったものを見ないと、日本側から次の交渉を呼びかけることも、その必然性もないのではないか。┄┄

 小池氏は本当に女性なのでしょうか?

曽我ひとみさんは、毎日毎日家族のもとへ帰りたい思いで一杯だと思います。

(曽我ひとみさんにとって、どんなに一日一日が苦痛なのか、女性の小池氏はわからないのでしょうか?)

何故、小池氏は(又、安倍晋三氏も、他の議連の方々も)、“自分が曽我さんと一緒になって北朝鮮へ行く”との行動をとらないのでしょうか?

そして、外務省の役人ばかりを非難しているのは、(そして、非難されているばかりでなく川口外相が率先して北朝鮮へ出向かないのが)、私にはとても奇異に映ります。

 

 それに、横田さんのお父さんも、お孫さんのところへ出向いたりすれば、そこから又新しい道が開けるかもしれないではありませんか!

何故、安倍氏はじめ国会議員の方々は、横田さん共々、北朝鮮へ出向かないのですか?

 

私は、曾我ひとみさんの“この二つの家族をばらばらにしたのはだれですか?”の答えは、帰国された5人の拉致被害者の方々の北朝鮮への訪問などを差し止め、“北朝鮮との交渉は長期戦になる”と平然と言ってのける小泉首相を初めとする安倍官房副長官、川口外相、そして拉致議連等の国会議員、家族会等と、曾我さんの思いを代弁しようとしないマスコミ(更には、私達)ではありませんか!?

(補足)

情けないことに川口外相は、15日の記者会見で「いま落ち着いて考えれば、みな北朝鮮側の組織だし人だから、総合して北朝鮮であると言っても良かったかなと思う」と右へならえ的な発言に前言を訂正しています。

同じ訂正するなら、「自分の至らぬ為です」と何故訂正されなかったのでしょうか?



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